34.野蛮人

 やがて軍での訓練生活も進んでいき、さらに成長したフォティアは入隊当初の面影は無くなっていた。あの痩せていて小柄だったフォティアが身長も伸び筋肉質な肉体はもはやいつでも実戦に投入されてもおかしくないほどの体格になっていたのだ。そして同時に、体が立派になるにつれフォティアの瞳は徐々に赤く染まっていった。
 軍隊では食事は無制限に食べられるため入隊以前まで食べられなかった訓練生達も皆同様に立派な体格になった。もちろんそれは戦に勝つためでもあるため軍部も食事は惜しまず与えていたのだ。さらに軍部ではすべての軍人の食事には薬物を入れている。それは筋肉を増強し闘争心を駆り立てる薬物である。それは若さも保てるためスコタディ国で王族と名乗る貴族たちも男女を問わず皆微量に摂取している。しかしこの薬物には常習性があり多量に摂取している者が服用を止めると発狂したり、ひどい倦怠感やうつ病を発症する。軍訓練に耐えられず途中辞めていったものの中にはそれが原因で自殺したものも少なくなかった。また薬物の副作用は瞳にも影響を及ぼし赤く染まっていくのだ。フォティアの瞳が赤くなっていったのはそのせいである。本来のスコタディの国民は青い瞳である。元々同じ民族であったフォース国も同様、そしてフォティアももちろん青い瞳であった。スコタディ国の軍人は皆赤い瞳であるため白兵戦ともなると敵味方の識別がすぐわかる。スコタディ国がこのように野蛮で攻撃的になったのももとはと言えばこの薬物が影響しているのだ。
 当時、フォース国内で反政府勢力を名乗る人間は違法であるこの薬物を大量に生産しこれを多くの人間に与えて仲間に引き入れた。そして反乱を起こし、少しずつ領土を征圧していきスコタディ国を作り上げたのである。
 この薬物から生まれる闘争心とアンチエイジング効果は性欲の増強にも影響を与える。軍人は夜になるとときどき街の女を捕まえてはやりたいほうだいする者もいた。エダフォスも手下に命令して何人もの若い女を連れてこさせ、自分が気に入った女を選んで残った女は手下に自由にさせていた。フォティアもまだ若い青年である。食事が出来ず痩せ細っていたときのフォティアには性欲とは無縁な存在であったが、今は薬物の影響もあり抑えきれないほどの性欲はあった。

 あるときフォティアは先輩訓練生たちに、

「フォティア、俺たちと街に遊びに行かないか!」

と誘われた。フォティアも入隊以来、訓練以外で街に出たことが無かったため興味本位に、

「はい、ご一緒します。」

と言って、夜の街へと繰り出した。フォティアは初めて夜の街中を歩き、道の両サイドに立ち並ぶお店を見ながら、

「夜なのに、この辺はにぎわってて明るいな。昼間とはずいぶん感じが違うな。」

と呟いていた。先輩訓練生たちは歩きながらもあちこちの居酒屋をのぞいていた。そして一人の先輩が、

「おい!この店いいんじゃないか!結構いるぜ!」

と、言うと皆でその居酒屋に入った。しばらくアルコール類を飲みながら訓練生同士で日ごろの訓練のうっぷんを晴らしていた。そして、フォティアが少しほろ酔い気分になった頃、先輩たちが店内の女グループ客に話しかけ始めた。言葉巧みに一緒に飲まないかと誘っていたのである。そのうち場所を変えようと女たちとともに皆外に出て、街から少し離れた場所へと移動した。女たちも酔った勢いで付いてきたが徐々に不安になり帰ろうとするが、先輩訓練生は力ずくで止めるのである。そのときフォティアは、最後尾から少し離れてついていった。しばらくし、人気のない場所に来ると皆そこに立ち止まりフォティアもその場にいた。女たちは声を出し逃げようとするが先輩訓練生は女たちを囲い込み逃がさないのである。すると先輩訓練生の一人が、

「フォティア、お前が気に入った女どれでもいいから連れてけよ!」

と、先輩訓練生がフォティアに向かって言ったのである。フォティアは思わず、

「え!?」

と、口に出した。しばらく躊躇しているとその先輩訓練生が、

「しょうがねえな!この女持ってけ!」

と言ってフォティアに向けて一人の女を突き飛ばした。女はフォティアの前に倒れそうになり思わずフォティアは女を抱きかかえた。その時、女の胸がフォティアの腕に触れた途端フォティアは頭に血が登り下半身が異常に興奮状態になった。他の者は皆暗闇にいやがる女たちを連れて消えていった。フォティアもとにかく離れた場所に女を抱きかかえて林の奥に向かった。遠くのほうで女の嫌がる声がいくつも聞こえていた。フォティアは女を地面に下ろすと、女は泣きながら震えていた。その姿を見たフォティアはさっきまでの興奮が消え去り冷静になっていた。そのときフォティアは、

「俺はいったい何をしているんだ。」

と言って、地面に下ろした女に向かって、

「安心しな、何もしないから。急いで帰りな。」

と言って先輩たちに分からないようにそっと女を街へ逃したのである。それ以後、フォティアは決して先輩訓練生の誘いを受けることは無かった。しかし、薬物による性的な欲求は抑えきれないものがある。フォティアはそれを乗り越えるため宿舎にあるトレーニング・ルームで一人過酷な筋トレで体を疲労させるなどしてごまかしていた。そして精神を落ち着かせた後、アエラスじいちゃんから教わった武術の基本型の稽古を一人黙々と続けていたのだった。