台所から宇宙へ13

この国の宝ともいえるものに、季節の景色があります。それは田んぼの水面へ映る空や山の姿です。田の水面に苗の穂先が風に揺れながら、その波間に移る空や山の色の美しさに癒されるひと時は、日本人に生まれてきてよかったと思う瞬間でもあります。そして、梅雨とは思えない不規則な雨により、今はこの景色も一瞬で稲や草も芝生のように見えるほどに成長をしています。たくましいというエネルギーそのものです。このエネルギーもこの国の宝物ではないでしょうか。

さて、移転に伴い農地を取得するという行程が発生しました。家庭菜園程度の経験にて、農地とはという勉強からはじまりました。同じ作物を作るのに同じ地上に変わりはないのですが、基本情報(土地の分類は田、畑、宅地、山林、原野、雑種地、… など23種あります)として宅地と農地の分類を知りました。野菜にしてみたら家屋の傍で作る家庭菜園の作物と、農家住宅の傍の田や畑と名がついたところで作る作物とでは作物からしたら関係が無いことでしょう。しかし、制度上地を分類して管理するという仕組みの社会の為に、通る道の用です。これは人間世界の制度の話しですが、昔の大化の改新による「公地公民」という制度の方が良かったような気がしてきました。

とにかく農地法の三条申請を農業委員会へ提出して、面談を受け審査されたのち農地の取得ができます。土地の面積の大小は関係ありません。つまりどんなに小さな面積の土地でも農地と名がついたものにはこの制度に関わり、農業従事者になる事で土地の名義変更が可能になります。農地の定義は、耕作(耕作とは土地に労働と資本を投じ肥培管理を行い、作物を栽培すること)の目的に供されるものとされています。つまり資本を投じて生産をする農業のことでした。農業機械の種類と保持数、種の仕入れ、肥料の仕入れの数値化、さらに労働時間を算出し、作物の出来高を算出、それを市場価格に換算をして提出をします。資料作りをしながら頭を過るのは、このプロセスに自然界(天気、土地の状態、地形の特性)の事は一切含まれないということと全て数字の世界である事の違和感でした。まるで人間業の世界を構築する作文に思えました。やがて面談では機材の購入先、資材の仕入れ先、委員会の役目等説明をされ、まるで企業入社面談のような空気に包まれました。

面談から約半月後、作文申請書への認可が下りて晴れて農家の一員になりました。昔の人は「百姓」と言って多種多様な職能を持つ人々の事を言い、農業とは百種の事柄を行いながら作物を作り生活を営む姿を見せて下さった歴史があります。天気予報に始まり治水、土木、等あらゆる事柄から、人との付き合い方迄、自足の生活を営めるのが百姓と認識しています。さあその世界への入り口に立ち、一番の難関が始まりました。それは、人の意識です。新参者への注目がひしひしと感じる日々の中、暫くは毎日が土地の観察です。農地の地目は田ですが、耕作者が不在の為暫くは畑として使われていました。とにかく一年いえ石の上にも三年と言うように、三年は観察をしながらすすめてゆきたいと考えていました。雨量や草の分布、虫、動物などの生態系も含め毎日が観察です。その様な中しばらくして気が付くと、地域の方の意識が農地に注がれていることが分かりはじめました。毎日通る軽トラの車から、毎朝の散歩や犬の散歩の人など、時には何処からともなく前住人の知り合いの方などが現れ、何気ない会話の中に情報収集されている事が分かるようになりました。こうして、初年度は注目の的で始まった畑となりました。農地からしてみたらどうなのでしょう。

とにかく令和の改心ならぬ「幸地幸民」への必要性を感じながら、地や人の意識が変われば社会も変わる方向へ進めてゆきたいと考えています。それを可能にするのは、波動からではないでしょうか。