ウラノスは初めての乗客用メテオラ、それもいきなりコントロール・ルームへの搭乗ということで少し緊張していた。乗客用メテオラを固定している上下ドッキングベイは搭乗のための通路も兼用しており、乗客は下部ドッキングベイを、また操縦者は上部を使用して乗り込む構造になっている。操縦者は最後に搭乗することになっているため、乗客はすでに乗り込み済みであった。ウラノスは父と共に上部ドッキングベイ通路を歩いていると父が、
「もうここはメテオラ内部だよ。この奥にコントロール・ルームがあるんだ。」
と言ったが、ウラノスはメテオラ内部に入ったことに全く気が付かなかった。ウラノスは、
「お父さん、何処で入ったか分からなかったよ。」
と言った。通路は外が見えない構造になっているため、ただ通路を歩いているだけでは何処からメテオラ内部に入ったかわからないのである。父は、
「後ろを見てごらん、何か違いがあるだろ。」
と言うと、ウラノスは
「確かに床の色がわずかに変わっているよ!」
と応えた。
「あの色の変わっている箇所がちょうど上部ドッキングベイとメテオラの境目なんだよ。」
と、父は説明してくれた。そして、二人はコントロール・ルームへと向かった。
通路は少し下っていたがしばらく進むと突き当り通路が左右に別れていた。ウラノスは、
「お父さん、通路が左右に別れた!」
と言うと、父は
「この左右に別れた通路は円形のコントロール・ルームを囲むように配置されており、ちょうどここから半周した反対側にコントロール・ルームの入口があるんだ。ウラノスは左を歩いていって、お父さんは右側通路を行くから。」
と言うと、ウラノスはお父さんの歩幅と同じになるように一歩一歩少し大股で歩いた。
ウラノスは、
「1、2、3、4...」
と何となく声を出して数えて歩いた。
「...13、14...」
ウラノスは数えながら右側を見ると壁が半透明になりコントロール・ルームの中が見えてきた。ウラノスはその中の様子を見ながら歩数を数えていたが、徐々に小声になっていった。しかし、父が反対側通路から近づくとまた元気よく数えはじめ、
「...24、25、26! お父さんと26歩目で一緒になった。」
「ここが入口なの、この場所は少し広いね。コントロール・ルームが覗けるよ。」
と言うと、父は、
「ここだけコントロール・ルームに向かって少し上にスロープしているだろ。ウラノス、そのスロープを上って半透明な壁に近づいてごらん。」
と言われたが、見た目が入口には見えないためウラノスは不思議だったが、言われるがままにスロープを3歩ほど上り壁に寄った。ウラノスは、
「お父さん、入れないよ!?」
と言うと、
「ウラノス、コントロール・ルームを囲む通路の半分が半透明の壁になっているけど、実はこれは壁じゃないんだよ。」
と言いながら、父は半透明の壁に手をかざしてそのまま手を伸ばすと突き抜けた。そして続けて、
「この半透明な壁のようなものは一種のバリアみたいな役目をしているんだ。そのままスロープをコントロール・ルームに向かって歩いてごらん。」
ウラノスは父の言うがままに進むと、コントロール・ルームに入っていた。その後ウラノスは父の操縦する一般乗客は入室禁止エリアであるコントロール・ルーム内を見学させてもらった。そこは円錐状の室内になっておりナオスを小さくしたような空間だった。真っ白な部屋の周囲には壁に沿って何やら計器と思わしきほのかに光を発するものがいくつもついていた。そして、その円錐状の天井中心の真下に操縦者の座席が設置されていた。ウラノスは見たことのない周囲の光景を目にしながら父に、
「お父さん、不思議な感じがする。スコラーで皆とナオスの大ホールの中にいたときと感じが似ている。」
と話した。
「ウラノスのその感覚は正しいよ。ここもナオスと同じで神聖な場所なんだ。このコントロール・ルームはメテオラのちょうど中心にあるんだ。ウラノス、いいかい、見ててよ。」
父がそう言うと、操縦席前に配置されている半円状の操作パネルに軽く手をかざした。すると円錐状の天井が一瞬で透明になり空が見えた。床も半透明である。まだドッキングベイと接続状態のため全開で空は見えてはいなかったがウラノスは思わず、
「うわー!」
と声を出した。ウラノスは浄化と上昇を学び精神状態や意識状態を自分なりにコントロールするすべを身に着けていたが、このときばかりは久しぶりに心が高ぶりワクワクした。
「なんだか自分が空中に浮いてるみたいな感じがする!」
ウラノスはしばらく興奮していた。しかし、落ち着いてくるとウラノスは、
「僕はこのコントロール・ルームにいても大丈夫なの?」
と言うと、父は
「通常ここに入れるのは操縦者だけでそれ以外の人間は入室禁止なんだが、今日は特別に許可を得てあるから大丈夫だよ。メテオラを浮上させるまでしばらく時間があるからウラノスはその間だけであれば入ることが許されているんだ。でも、そろそろ準備があるからコントロール・ルームの出入り口のスロープを降りた少し広くなっている箇所に座席があるからそこで見学していなさい。そこからならお父さんの操縦が見られるから。」
と言われウラノスはコントロール・ルームから出て少し下にある座席に着席した。