私達は縁側から見えるお庭やお寺の周囲を覆う真っすぐに伸びた大木を眺めながら講堂奥に向かわれた住職を待った。しばらくして住職が厚手の座布団を手にして戻られ、
「お待たせいたしました。」
と言って、その座布団を私たちの前に置かれた。そして、住職は
「坐禅の所要時間ですが三十分程度を予定しております。
ご用意いたしました座布団は、そのままでも折り曲げて敷いていただいても構いません。
座る向きですが、通常の禅寺ですと壁の方に向かって座る場合が多いでしょうが、天気もよろしいですし縁側の外に向かって座っていただいても構いません。ここでは特に縛りなどございませんのでどうぞご自由にお座りください。
それから、通常ですと半眼といって完全に目を閉じずうっすら目を開いてますが、それも閉じて下さっても構いません。
座り方は結跏趺坐や半跏趺坐といったものが一般的ですが、初めての方は脚への負担もございますので正座でもあぐらでも結構ですのでこれもご自由にお決めください。」
と説明され、結跏趺坐と半跏趺坐の座り方について教えていただいた。そして、
「始める前に少しお時間をお取り致しますので、ご自分の座りやすい姿勢を探ってみてください。」
と住職は言われた後、再びその場を離れていかれた。その間、私達は自分の坐禅のスタイルを決めていた。私も宙美も縁側から外に体を向けて座ることにし、座り方については私はあぐらを組むことにしたが、宙美は、
「私、半跏趺坐でやってみるわ。」
と言って、折った座布団をお尻にあてて座っていた。
再び住職が戻ると、
「座り方などはお決まりですかな?」
と言われ、私達はそれぞれの座り方で座わり、
「二人とも目は閉じて、この座り方で行います。」
と言うと、住職が、
「承知しました。
では、始める前によろしければ冷たいお茶をお召し上がりください。
三十分とは申しましても喉が渇いていては集中が続きませんでしょうし、暑さで体にもよろしくございませんので。」
と言われ、私達はありがたく頂いた。お茶を飲んでいる間、住職はさらに説明を加えた。
「坐禅中、私はお二人を見ております。そのとき、身体に乱れがあると私が判断したら肩に軽く手を触れますのでその時は正してください。
ご存知かもしれませんが、通常の禅寺ではこのような場合は警策で背中や肩を叩きますが、そのようなことはいたしませんのでご安心ください。
坐禅の開始と終了にはこの小さな鐘を鳴らしてお知らせ致します。」
私達は、お茶を飲み干し、お礼を言って再び坐禅の体勢に戻った。
そして住職から、
「それでは、始めさせていただきます。」
と言うと、住職は掌ほどの鐘を左手で吊るしあげ、右手に小さな撥を持った。そして、鐘を撥で優しく叩くと涼し気な音とともに私達は目を閉じていった。
私は鐘の音に集中しその余韻を感じながらその音が静かに消えていくのを感じていると、それと相反して徐々にお寺の周囲から流れてくる虫の音や鳥たちの鳴き声で包まれはじめるのを感じはじめた。微風で揺らされた木漏れ日が私達の膝物まで届いておりその光の移動が閉じた目の前で優しく明るさを変え心地よかった。
頂いた冷たいお茶のお陰で喉も潤い身体はとても快適な状態だった。私はしばらくそんなすっきりとした感覚を味わいながら、その場の雰囲気に溶け込むように馴染んでいった。いつにも増してこころは落ち着き、体は緊張感もなく緩まった状態であったが、意識に何か凛とした感覚があった。それは、このお寺にあるものすべて、そして空気と言うか空間がとても澄んでおり清まっているような感じがそうさせている気がした。
それからどれだけの時間が立っただろうか、なぜか私は天に意識が向いていた。何か頭上に引っ張られるような意識が感じられたためである。しばらくすると私の意識は高い空の上に昇りさらにそれは上昇していった。不思議である。生まれて初めての坐禅を行っている私は、
「これが坐禅というものなのか!?」
と、こころの中で感動している自分を客観視しているもう一人の自分がいた。
この上昇する意識はとても集中しやすく感じたため私はひたすら上昇するイメージを続けた。なぜか体が熱くなり、それがおさまると身体の中心に一本の柱ようなものが通った感じになった。全身が光で包まれたような違う場所にいるような感覚でもあった。さらに、それは隣で座禅をしている宙美と一緒に包まれている感覚でありその光は四方に放射されているようにも感じた。
まるで天からの光が私達の身体を通して周囲に広がっていく感じである。
私は何の疑問もなく只々この感覚に浸っていた。
