フォティアたち訓練生の部屋に入ってきたグループは、通路に訓練生がいると、
「邪魔だ!どけ!」
と言って突き飛ばしていた。
「何だあいつらは、乱暴だな。」
フォティアは口には出さないがそう思っていた。そのときはその程度で特段気にすることもなく数日が過ぎていった。しかし、再び奴らが入ってきた。すると先頭を歩く体格のいいやつが一人の訓練生に目をやった。比較的目の大きいその訓練生に見られたことが気に障ったのだろうか、
「おい!お前!なに見てんだよ!」
と言い、その訓練生のベッドの脚を蹴って歩き去って行った。その絡まれた訓練生はフォティアや他の訓練生たちと比べても体は小さく痩せていた。訓練も何とかついてきているが、脱落するのも時間の問題かもしれないなとフォティアは思っていた。翌晩、フォティアは夕食を終わらせ自分のベッドのある部屋に向かって廊下を歩いていた途中、昨日の柄の悪い奴らが小柄な訓練生を囲んでいた。その訓練生は昨日フォティアと同じ部屋でベッドの脚を蹴られた訓練生であった。フォティアは立ち止まり話を聞いていると、その柄の悪いグループの一人が、
「よく聞け!この方は軍上層部にお父様がいらっしゃるエダフォスさんだ。これからは見かけたら必ず挨拶しろよ!」
と言うと、エダフォスはその小柄な訓練生のほっぺたをペタペタ叩きながら、
「いいか、覚えておけ。俺に逆らえばここにはいられなくなるからな。」
と捨て台詞をいって去っていった。昨日ベッドの脚を蹴った先頭を歩いていたやつである。フォティアは、
「またあいつか、感じ悪いな!」
と小声で言って今までに経験したことのないとても嫌な気分になった。このエダフォスとは、ちょうどフォティアが入隊した辺りから同じように訓練をはじめた訓練生であった。指導官たちはエダフォスが軍幹部の息子と知っているため、指導官の中にはエダフォスを贔屓し訓練もきつくならないように配慮していた。ときにはエダフォスが他の訓練生をいじめていても見て見ぬふりをする指導官もいるのだ。
そんなあるとき食堂でちょっとしたトラブルがあった。エダフォスから脅されていたあの小柄な訓練生が食事の載ったお盆をもって運んでいる時、エダフォスたちグループのいるテーブルを横切っていった。そんときグループの一人が小柄な訓練生の足をわざと引っ掛けたのである。そのとき持っていた食事がエダフォスに少し掛かりエダフォスは、
「何しやがるんだ!お前!わざとやりやがったな!」
と大声で怒鳴った。エダフォスは小柄な訓練生に土下座して謝れと命令していた。その様子を一部始終見ていたフォティアは、
「謝る必要なんかないぞ、お前の仲間がわざと脚を引っ掛けたんじゃないか!」
と、声に出した。エダフォス達グループは一斉にフォティアを睨んだ。そしてエダフォスは、
「何だお前は!関係ねえだろ!文句あるのか!」
と言ってフォティアに近づいてきた。そして、エダフォスはフォティアの胸倉を掴もうと手を伸ばした。エダフォスに比べるとフォティアの体は細く小さいため誰が見てもフォティアに勝ち目がないのは明らかだと思っていた。周りでは、
「またエダフォスたちか。フォティアもほっとけばいいのに。」
と、小声で話していた。エダフォスたちは、ときどきこうした問題を引き起こすため周りもよく知っていたのだ。しかし、フォティアはエダフォスが胸倉を掴もうとした腕に僅かに触れながら軽く重みをかけ後退した。フォティア自信も条件反射的に反応してしまったのだ。するとエダフォスはバランスが崩れ前のめりになってしまった。食堂で皆が注目している中での出来事でエダフォスは少し恥を欠かされたと思い頭に血が登った。
「この野郎!」
と言い、すかさずエダフォスはフォティアに殴りかかった。しかし、ぎりぎりのところでかわされ空振りしエダフォスはさらに頭にきた。フォティアはこの状況にも常に冷静に対応していた。それは、アエラスじいちゃんからもいつも言われてきたからだ。じいちゃんは、
「フォティア、どんな状況下になっても、特に自分が危険な状態になったときはじゃ、決してこころを乱してはならん。そのためには常に丹田に意識を落とし呼吸を落ち着け身体に無駄な力みが入らないようにしなさい。」
と。エダフォスは息を切らしながらも何度もフォティアに殴りかかっていったが、軽くかわされてしまうのである。そのうち指導官が近づき事態はとりあえず収まった。しかし、エダフォスのこころの中ではフォティアに対して強い憎悪が芽生え始めたのである。そんな出来事以来、エダフォス達は小柄な訓練生にはちょっかいをかけなくなった。ただ、エダフォスはフォティアに憎しみを抱いていたため、指導官に指示しフォティアだけ分からないように訓練をきつくするように裏で命令していた。指導官によってはエダフォスの指示に従うものも数名いたのである。しかし、フォティアはそんなことには屈せず厳しい訓練にしがみついていった。そんな苦しい状態で何日も何日も訓練は続き、フォティアはさらに成長していったのである。