9.出会い

 そんな子供時代を送ったウラノスが、自身が決断したメテオラ操縦士になるための第一歩である中大規模メテオラ訓練生へとなった。そして、訓練初日である今日の早朝、特別に子供の頃から馴染みのナオスで浄化と上昇を行いこころも身体も清めこの日を迎えたのである。初日の講習ではメテオラの原理を実験や模型なども利用して学ぶ日とスケジュール表には記載されていた。ウラノスは訓練前から自主的に勉強しメテオラの浮上原理の概略は知ってはいたがそれはあくまで知識としてでしかなかった。しかし、今日の講習には実験なども交えるということでウラノスは楽しみにしていた。講習はウラノスを含めて五人の実習生がいた。そのうちの一名は女性である。女性の名はアネモイといいウラノスと同期なわけだが、この二人にはちょっとしたエピソードがあった。それは、ウラノスがメテオラ操縦士訓練生になるため訓練施設に受験申請書の提出に行ったときの話である。

 ウラノスは出かける前に父に、

「お父さん、メテオラ訓練施設へ受験申請してくるね。」

と言って出かけた。父は、

「いよいよだな、まずは申請通るといいな!」

とだけ言って送り出してくれた。ウラノスはメテオラ・ボードに乗り、小型メテオラ・ステーションへと向った。そしてそこからしばらく最寄りのステーションまで小型メテオラで移動し、再びメテオラ・ボードで訓練施設に向かった。メテオラ訓練施設にウラノスが到着したとき、ちょうどアネモイも受験申請に来ており、すでに手続きが終わりエントランスに向かう通路を歩いていた。ウラノスは逆に施設内に入り申請書を受け付ける窓口に向かって通路を歩いていった。そして通路途中で二人が出会ったときのことである。お互い軽く会釈した後、アネモイがウラノスと目があった途端、

「あ!」

と小さな声を出し揃えた両手を胸元であてて立ち止まったかと思うと、突然泣き崩れたのである。ウラノスはあまりにも突然のことだったが無意識のうちにアネモイに近寄り、そして細身で小柄のアネモイの体を気遣うように優しく肩に手を掛け、

「大丈夫ですか! どこか体調でも悪いのですか!」

と声を掛けた。アネモイは床に崩れてうつむいたまま涙が止まらなかった。アネモイも自分に何が起きたかわからなかった。しかし、落ち着けようとしてもどうにも止まらないのである。

「ごめんなさい、大丈夫です。あなたを見たらわからないけど涙が出て止まらないの。なんでも無いです。ごめんなさい。ごめんなさい。」

と、アネモイは少し震えた言葉でウラノスに謝っていた。しかし、ウラノスも突然見ず知らずの女性に目の前で泣かれてしまい、大丈夫ですと言われても流石にこの状況では大丈夫とは思えず、近くにあった長椅子にアネモイを座らせ落ち着くまでそばにいた。ウラノスはこのとき通路に人がいなかったので安心した。人が見たら自分が泣かせたみたいに見えると思ったからである。しばらくして涙が止まってきたアネモイはウラノスに、

「脅かして本当にごめんなさい。私、どうかしていたみたいです。私、アネモイと言います。今日メテオラ操縦士訓練生の受験申請のため先程手続きを終えたところだったんです。」

と、少し涙を拭きながら言った。ウラノスは、

「女性操縦士を目指しているんですね。僕も、今日受験申請に来たんです。もしかしたら同期になれるかもしれないですね。」

と返した。中大規模タイプのメテオラの場合、操縦士訓練生になるための受験申請が受付られても書類審査すら通らず受験出来ないことはよくあることで、二人が同期になる可能性はかなり低いのである。それだけメテオラの操縦士訓練生になるための審査は難しく、受験を許されたものだけが一般試験、適正試験を受験し、その試験が通ると面接を繰り返すのである。それは、各審査員が受験者の人間性やどういった波動や魂の持ち主なのかなど多岐方面から面接により分析し、それらをすべてクリアーして初めて中大規模メテオラ操縦士訓練生となれるのである。ウラノスはアネモイが落ち着くのを見計らって、

「アネモイ、もう大丈夫そうだね。そろそろ僕も申請にいかなきゃ。僕はウラノス。君と一緒に訓練出来ることを願っているよ。それじゃー、行くね。」

と言って、志願申請の受付に向かった。ウラノスはこのとき、なぜかこの女性と一緒に訓練できるといいなと思ってそんな言葉をかけた。そして同時にウラノスは自分の胸のあたりで何となくアネモイから懐かしく愛おしい不思議な気持ちが芽生えたのだった。

 そんなエピソードのあったアネモイもメテオラ訓練施設で初日の講習にきていた。アネモイは訓練生入学式ではじめて同期訓練生と対面し、そこにウラノスがいたのをみてすぐに駆け寄り、

「ウラノス! よかった、あなたも合格したのね! これから一緒に訓練できて嬉しいわ!」

と言うと、ウラノスも、

「僕も、アネモイと同期になれるといいなと思っていたんだ。よろしくね。」

とお互い挨拶を交わしていた。