「くそ――何、だ、この――この、光は――ただのプラズマでは、ないのか……!?」
ミュウは倒れたドリウスの上に崩れ落ちながら、彼を取り巻いていた悪魔のエネルギーが大量にこちらに流れ込み――その途端に、もがき苦しんでいるのを感じた。
エネルギーの重圧にミュウは呻いた。だが、心の奥で燃え盛る光が、何よりも清く、どれほど悪魔の力に晒されても、燦然と白く輝き続けていた。
限界だ。ミュウは霞む意識の中、祈るような気持ちで、その純白の炎にすがりついた。
『あ、ああ、いやだ、いやだ、なくなる――分解される――!? ぁ、ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』
そして――意識の上では、全てが塵となり、焼き尽くされた。
「――ぁ……ぁーあ……負け、ちまった」
幾分縮んだように見えるドリウスの上で、ミュウは動けないまま、その言葉を聞いていた。
「テメェ、潔さにも……限度が、あるだろうが、よ……躊躇なく、腕なんか、切り落としやがって……俺なら、ぜってぇ、やらねぇ……」
「……意地を、通しました」
へっ、と。男は嘲った。
「ああ……そうかよ……ご立派な、ことで……」
それきり、彼の生命活動は停止した。
「…………」
そのまま、倒れていたミュウは、辛うじてドリウスの死体の上から降りて、仰向けになった。
しばらくして、なけなしの形状再生で各機関の『ガタ』がましになり、何とか起き上がる。焼けた町には、もう、誰もいなかった。
気づけば、夕日が差そうとしている。ぼんやりと立ち尽くしていたミュウは、ざわりと――今までにないほどの、不吉な予感を覚えた。
無数の警告が体中を埋め尽くした。
情報世界の地上に、巨大などす黒い帳が降りた。それは、崩壊砲撃の時に匹敵するほどの黒さだった。
一足先に夜がきた。それほどの闇の中、僅かに赤い水平線の向こうから――何か、巨大な存在が立ち上がろうとしていた。
ビルの数百倍も巨大な、漆黒の四肢を備えた体躯。背から生えた翼には皮膜が張っていた。は虫類に似た獰猛そうな頭と、そこから飛び出したねじくれた巨大な一対の角。
幻視した存在の推定エネルギー量は信じがたいものだった。
人間の魂のエネルギー量を一であるとするならば――トータル数千兆超え。人智の外にあるとしか思えない存在だった。
――ォオオオオオオ――と、そこから、空気が唸りを上げるほどのエネルギーが発せられた。
ぞっと体中を凍り付くような恐怖が駆け上った。
かみ を。
いずれ きたる さばき の しんこう とやら を。
とめられぬ の ならば。
これを おわらせる まで の こと。
――全ては無に帰するのだ。
そう、独り言のように思念が伝わってきた。
ミュウが見ていると、『それ』は頭をもたげ、翼を広げたかと思うと、一瞬で空へと跳び上がり――どこかへと消失した。
呆けていたミュウは、その現象に気をとられたせいで、謎の存在が去ったあと、未だ無数の警告が走っていることに遅れて気づいた。
その時、白騎士団からも通信が入った。
【マザー! すぐにお逃げください!】
「……サリア?」
【申し訳ございません……我々では、アレを止めきれませんでした――! ぎりぎりのところで食い止めていたのに、さっき、一気に侵食が進んで――!】
そこで、ざわざわと続く予感の正体が何であるのか、サリアは叫ぶように告げた。
【――惑星杭が発射されました! 全基がマザーを目標地点にしています!】
ミュウは目を見開いた。
――惑星杭。星を穿ち、星の地核が秘めた力を暴走させることで、周囲の地殻を砕く大量破壊兵器。シンカナウスがいよいよ追い詰められた時の最後の報復手段として用意していた、最悪の兵器の名前だ。そう――名前だけは、知っていた。
通常は一基、用いられればいい終末兵器が――全基、一点に集中する。
そうなれば――どうなる?
嫌でもシミュレーションが働いた。計算が始まる。そして、出た結果を見つめ、ミュウは愕然とした。
【……惑星が……束の間、停まる……!】
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幾分縮んだように見えるドリウスの上で、ミュウは動けないまま、その言葉を聞いていた。
「テメェ、潔さにも……限度が、あるだろうが、よ……躊躇なく、腕なんか、切り落としやがって……俺なら、ぜってぇ、やらねぇ……」
「……意地を、通しました」
へっ、と。男は嘲った。
「ああ……そうかよ……ご立派な、ことで……」
それきり、彼の生命活動は停止した。
「…………」
そのまま、倒れていたミュウは、辛うじてドリウスの死体の上から降りて、仰向けになった。
しばらくして、なけなしの形状再生で各機関の『ガタ』がましになり、何とか起き上がる。焼けた町には、もう、誰もいなかった。
気づけば、夕日が差そうとしている。ぼんやりと立ち尽くしていたミュウは、ざわりと――今までにないほどの、不吉な予感を覚えた。
無数の警告が体中を埋め尽くした。
情報世界の地上に、巨大などす黒い帳が降りた。それは、崩壊砲撃の時に匹敵するほどの黒さだった。
一足先に夜がきた。それほどの闇の中、僅かに赤い水平線の向こうから――何か、巨大な存在が立ち上がろうとしていた。
ビルの数百倍も巨大な、漆黒の四肢を備えた体躯。背から生えた翼には皮膜が張っていた。は虫類に似た獰猛そうな頭と、そこから飛び出したねじくれた巨大な一対の角。
幻視した存在の推定エネルギー量は信じがたいものだった。
人間の魂のエネルギー量を一であるとするならば――トータル数千兆超え。人智の外にあるとしか思えない存在だった。
――ォオオオオオオ――と、そこから、空気が唸りを上げるほどのエネルギーが発せられた。
ぞっと体中を凍り付くような恐怖が駆け上った。
かみ を。
いずれ きたる さばき の しんこう とやら を。
とめられぬ の ならば。
これを おわらせる まで の こと。
――全ては無に帰するのだ。
そう、独り言のように思念が伝わってきた。
ミュウが見ていると、『それ』は頭をもたげ、翼を広げたかと思うと、一瞬で空へと跳び上がり――どこかへと消失した。
呆けていたミュウは、その現象に気をとられたせいで、謎の存在が去ったあと、未だ無数の警告が走っていることに遅れて気づいた。
その時、白騎士団からも通信が入った。
【マザー! すぐにお逃げください!】
「……サリア?」
【申し訳ございません……我々では、アレを止めきれませんでした――! ぎりぎりのところで食い止めていたのに、さっき、一気に侵食が進んで――!】
そこで、ざわざわと続く予感の正体が何であるのか、サリアは叫ぶように告げた。
【――惑星杭が発射されました! 全基がマザーを目標地点にしています!】
ミュウは目を見開いた。
――惑星杭。星を穿ち、星の地核が秘めた力を暴走させることで、周囲の地殻を砕く大量破壊兵器。シンカナウスがいよいよ追い詰められた時の最後の報復手段として用意していた、最悪の兵器の名前だ。そう――名前だけは、知っていた。
通常は一基、用いられればいい終末兵器が――全基、一点に集中する。
そうなれば――どうなる?
嫌でもシミュレーションが働いた。計算が始まる。そして、出た結果を見つめ、ミュウは愕然とした。
【……惑星が……束の間、停まる……!】
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