「――潰走もせず、よく一機も欠けずに戻ってこれたものだ。頑丈さと組織性、残存能力の評価は上げておこう」
あれ、とμは目を瞬いた。戦闘前の刺々しい気配は少しなりを潜め、どちらかというと周りの兵卒を見る目の方が少し厳しいように見えた。
「――何だ、その目は」
「し、失礼しました。……その、当たり前のことを、こなしてきたまでのことでしたので」
「……新型兵器を前に突貫をかけた諸君らの勇気がなければ、我が国が今回の戦闘で被った損害は今以上のものであり、止まることを知らなかっただろう。その行いに敬意を表したまでのことだ」
それに、と少将は隣のエメレオを睨みつけた。
「聞くところによると、これが買った恨みのツケを我が国は支払わされているそうだからな」
「……確かに、通信ではバレット博士と名乗ったんだね?」
「はい。エントの兵器開発主任だと……」
「…………あの人は研究者としても技術者としても素晴らしい人だった。人間的な問題で施設からはいなくなってしまったけれど、人倫を抜きにすれば凄まじい研究成果を誇っていたよ」
「……倫理観が歪んでいるとは聞き知っていたが、あの色惚けをそこまで評価するのはあなたくらいのものだぞ」
「僕は引き際というものを心得ているからね。公の部分ではちゃんと弁えていたとも」
「…………」
裏では? と問いかけたくなったのは、きっとμだけではない。
「場所を変える。博士と代表者二人――そうだな、TYPE:ε、TYPE:μは第一会議室に。その他は装備を整え待機していろ」
少将は言いながら踵を返した。
他の兵たちは被害にあった地域や、他の地域の住民に対する避難誘導の準備で忙しく立ち回っている。周囲で指示を飛ばす緊迫した声が、次の戦いまで幾ばくの猶予もないことを伝えていた。
*
「敵軍の状況については、空軍の偵察機から情報が入っております」
重々しい空気の中、部屋に将校たちが集まり、緊急会議が始まった。別の遠隔地と接続して開催される、大規模なものである。
「緊急投入された戦闘型アンドロイド小隊、人形部隊により、攪乱を受けた新型兵器α-TX3は、確認された十機のうち二機が破壊され、八機が小規模の破損に留まっているものの横転、沈没。現在、敵艦隊は引き上げと起立作業に追われている模様です」
「不正利用を受けたテレポート・ゲートエリアはどうなっている?」
『三十分前に通行封鎖を完了いたしました』ルプシー少将の問いに、防空システムの担当者が答えた。『また、ヴァーチン博士のご協力により、バックドア攻撃の起点を少なくとも三箇所発見。緊急アップデートにより発見された部分を修正し、その後不正利用の割り込みがなくなっていることを確認しております』
『テレポート・ゲートエリアを使い、戦力をこれ以上一気に領内に送り込まれることは防いだか……』
『だが、既にいくらか入り込まれている。あの巨大兵器のあとから、揚陸艦が数隻、テレポート・ゲートエリアを通過し、陸地に向かってきている。第七艦隊が潰された今、別の艦隊を動かしているが、早くて数日以内には侵攻が開始されるだろう。また、北方からも別の戦力が我が国に向けて進行中であるとの報告が入っている』
「問題は新型兵器の数だ。あんなものが何十機と暴れれば、今回のように市民に甚大な被害が出る恐れがある。同種の機体を運んでいる様子はあったか?」
『直接、移動したり、運ばれている様子は見受けられませんでしたが……』
「失礼。私からも補足を」
答えを遮り、声を上げたのはエメレオだった。
「α-TX3はシンカナウスとエントが途中まで共同開発を行っていたものです。一キロ以上にも及ぶ巨大さゆえ、平時は移動は自力で行う他に、部位ごとに分解しての移動を想定している。その場合、当初の構想では、航空艦隊でピストン輸送を行えば、現地にて三日で二十機は組み上げられる想定となっていました。初期からこの構想が引き継がれているのであれば、似たような規模を展開できる可能性は高いと思われます」
会議がざわめいた。話を聞いていたεとμは顔を強張らせた。
「はい。エントの兵器開発主任だと……」
「…………あの人は研究者としても技術者としても素晴らしい人だった。人間的な問題で施設からはいなくなってしまったけれど、人倫を抜きにすれば凄まじい研究成果を誇っていたよ」
「……倫理観が歪んでいるとは聞き知っていたが、あの色惚けをそこまで評価するのはあなたくらいのものだぞ」
「僕は引き際というものを心得ているからね。公の部分ではちゃんと弁えていたとも」
「…………」
裏では? と問いかけたくなったのは、きっとμだけではない。
「場所を変える。博士と代表者二人――そうだな、TYPE:ε、TYPE:μは第一会議室に。その他は装備を整え待機していろ」
少将は言いながら踵を返した。
他の兵たちは被害にあった地域や、他の地域の住民に対する避難誘導の準備で忙しく立ち回っている。周囲で指示を飛ばす緊迫した声が、次の戦いまで幾ばくの猶予もないことを伝えていた。
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「敵軍の状況については、空軍の偵察機から情報が入っております」
重々しい空気の中、部屋に将校たちが集まり、緊急会議が始まった。別の遠隔地と接続して開催される、大規模なものである。
「緊急投入された戦闘型アンドロイド小隊、人形部隊により、攪乱を受けた新型兵器α-TX3は、確認された十機のうち二機が破壊され、八機が小規模の破損に留まっているものの横転、沈没。現在、敵艦隊は引き上げと起立作業に追われている模様です」
「不正利用を受けたテレポート・ゲートエリアはどうなっている?」
『三十分前に通行封鎖を完了いたしました』ルプシー少将の問いに、防空システムの担当者が答えた。『また、ヴァーチン博士のご協力により、バックドア攻撃の起点を少なくとも三箇所発見。緊急アップデートにより発見された部分を修正し、その後不正利用の割り込みがなくなっていることを確認しております』
『テレポート・ゲートエリアを使い、戦力をこれ以上一気に領内に送り込まれることは防いだか……』
『だが、既にいくらか入り込まれている。あの巨大兵器のあとから、揚陸艦が数隻、テレポート・ゲートエリアを通過し、陸地に向かってきている。第七艦隊が潰された今、別の艦隊を動かしているが、早くて数日以内には侵攻が開始されるだろう。また、北方からも別の戦力が我が国に向けて進行中であるとの報告が入っている』
「問題は新型兵器の数だ。あんなものが何十機と暴れれば、今回のように市民に甚大な被害が出る恐れがある。同種の機体を運んでいる様子はあったか?」
『直接、移動したり、運ばれている様子は見受けられませんでしたが……』
「失礼。私からも補足を」
答えを遮り、声を上げたのはエメレオだった。
「α-TX3はシンカナウスとエントが途中まで共同開発を行っていたものです。一キロ以上にも及ぶ巨大さゆえ、平時は移動は自力で行う他に、部位ごとに分解しての移動を想定している。その場合、当初の構想では、航空艦隊でピストン輸送を行えば、現地にて三日で二十機は組み上げられる想定となっていました。初期からこの構想が引き継がれているのであれば、似たような規模を展開できる可能性は高いと思われます」
会議がざわめいた。話を聞いていたεとμは顔を強張らせた。