そんな小さなメテオラ・ボードだが、大きなメテオラとなれば、かなりの熟練が必要になる。この星では地上に接触して移動する乗り物も存在する。しかし、出来る限り自然を破壊しないようにするというこの星の絶対原則からメテオラのようなものが発明されたのである。ウラノスが今の段階で目指しているのは貨物用の中規模メテオラである。中規模と言ってもこれを操縦するには大変なトレーニングを要する。このメテオラは操縦者の精神状態はもちろんのこと、パイロットの出す波動によりコントロールする乗り物で、当然波動に少しでも穢れがあっては中規模以上のメテオラは浮かすことも動かすことも出来ない。従って、穢れのないそしてそれを常に安定して維持できる精神性が要求されるのである。メテオラ・ボードの比ではない。メテオラには貨物用のものもあれば乗客用のものもある。ウラノスの父は数百人の乗客をも運ぶメテオラを操縦していた。乗客のように人間を輸送する場合は貨物と異なりもっとも難しいと言われている。それは、乗客の波動がメテオラの操縦に影響するからである。そのため操縦士は乗客すべてに悪い想念波動などが出ないようにコントロールするのと同時に穢のある乗客の浄化も行うというとてつもなく高度でとてつもない精神性を要求する仕事なのである。操縦士の精神状態が直接乗客とメテオラに現れ、それはメテオラの乗り心地にも左右する。そのためこの星ではウラノスの父のような人間は尊敬され、この職は崇高で神聖な仕事と言われている。しかし、ベテランの操縦士でも場合によっては航行に支障が発生するとも限らないため、メテオラには緊急時用にバックアップの光エネルギーから動力を得るシステムは付いている。しかし、滅多に使うことはない。光動力によるシステムは高温を発生するのと大気の組成に影響を及ぼすため環境破壊の対象になり緊急時以外は基本的には使用禁止である。それだけメテオラの通常航行は環境によい乗り物なのである。
ウラノスがスコラーでの大人社会の学びのため初めて乗客用メテオラに搭乗したときの話である。それも自分の父が操縦するメテオラにである。ウラノスは父に連れられ今回搭乗するメテオラをドッキングベイ近くで見ていた。乗客用メテオラは巨大な楕円形でドッキングベイがメテオラを上下で挟み込むかのようにして固定されていた。まるで楕円形の小さな石の上下を親指と人差し指で挟み込かのような感じに見える。
「ウラノス、あれが今日お父さんが操縦するメテオラだ。」
と父が言うと、
「すごく大きいね。周りで小型メテオラに載って作業している人たちがいるよね。僕、あの作業、知ってるよ!」
と、ウラノスが応えた。ウラノスはスコラ―の大人社会の学びですでにいくつかの仕事を経験してきているのだが、その中で中規模の貨物メテオラのメンテナンスを行う仕事を体験していた。ウラノスは、
「あの方たちはメテオラの点検しているんだよね。ああやって、手をかざして異常な箇所を点検して治しているんだって教えられたよ。」
と話すと。父は、
「そうだよ、ウラノスはすでに説明を受けたかもしれないが、あの業務はお父さんたちのような操縦とは質の異なる光の波動を操るんだ。お父さん達メテオラ操縦者は一定時間持続的に異なるレベルの安定した光の波動を発するけれど、メンテナンス業務は僅かな時間にものすごいエネルギーを身体全体から、あるいは掌から発するんだ。彼らはチームで作業をするのだけれど、一人がメテオラのコントロール・ルームに入り目を閉じながらメテオラ全体を自分自身と一体になるかのように意識を広げ包み込むんだ。その点はお父さんの操縦と多少類似してるがな。」
と言うと、ウラノスはすかさず、
「それって、メテオラ・ボードをコントロールするのに似ているね!」
と言うと、続けて父は、
「そのとおりだよウラノス、メテオラ・ボードを浮かすときに使う意識はすべてに通じる最も基本的なことなんだ。扱う規模が違うが原理は似ているんだ。そして、コントロール・ルームにいる作業者はこの状態を維持して心の中でメテオラを見るそうだ。そうするとメテオラが光の塊に見えるんだ。だけど何処か異常な箇所があるとそこが僅かに暗くなって見えるらしい。」
と説明すると、ウラノスは、
「お父さんは、その作業はしたことあるの?」
と聞くと、
「お父さんももちろん経験はあるけれど、やはり人には向き不向きがあるんだね、お父さんはなかなかあのメンテナンス者達のようなレベルにはいかなくてね。」
と父は応えた。ウラノスは心の中で、
「お父さんでも出来ないことあるんだ。」
と、思った。父は続けて、
「ウラノスがさっき説明してくれた掌をかざしている作業者は、コントロール・ルームにいる作業者の指示で異常のある箇所に光の波動を送っているんだよ。掌からの光は見て分かるように肉眼でも分かるくらい輝きを放つんだね。そのくらいピンポイントに集中したエネルギーを与えて修復しているんだ。大したものだよ。」
と付け加えた。そしてしばらくして父は、
「そろそろ、搭乗しようか、ウラノス。」
と言うと、ウラノスは、
「うん!」
と応えて父の後を付いて行った。