敵国スコタディ軍の軍服を身に着けたフォティアはフォース軍部隊とともに目的の戦地に向かっていた。その軍服は、背中のスコタディ国章が破れており、鉄兜には白い印が付けてあった。それはフォース軍の砲撃隊や銃撃隊が遠方からフォティアの方に攻撃をしないようにするための目印なのである。
フォティアは作戦通りフォース軍から追われるようにして遠ざかり、敵国内に潜入後うまくスコタディ軍の部隊に近づくことができた。フォティアの瞳は青く戻っているが、赤い瞳のコンタクトをつけていたため怪しまれることはなかった。スコタディ軍の部隊は多くの兵を投入しており兵の入れ替わりが激しかったためフォティア一人が戦地から離脱してもだれも気に留めなかった。そしてうまく軍の輸送車両に乗り込み基地内部に潜り込めたフォティアは夜になるのを待った。
夜中、軍服を数着拝借して基地を抜け出し、時間をかけ徒歩で自分の生まれ育った村へと向かった。車両を盗もうと考えたが夜は基地の車両出入り口が完全封鎖されるため諦め自分の脚で向かうことに決めたのだ。村へのルートはフォース軍から渡された大雑把な地図だけが頼りである。潜入した基地のおおよその位置から割り出しても徒歩で村まで三日はかかる。脱出日は作戦開始から七日後であるため残り四日以内に地下道のある施設に向かわなくてはならない。一人の行動であれば問題ないが女性も連れ出すとなると計画通りには事は進まない。ましてや母は病弱のため走ることは出来ない。フォティアは出来る限り急いで自分の生まれた村へと向かった。
そして三日目の朝、故郷の村に着き母と妹のいる家に着いた。そこはフォティアが入隊後に一度帰郷したときと何ら変わっていなかったが、家の前には一面黄色い花が沢山咲き茂っていた。花は腰の高さまである茎の先端に咲いており、フォティアが家に近づくと花の中から人が立ち上がった。女性である。花の中でしゃがんでいたので気が付かなかったが、妹のネロウだとすぐに分かった。ネロウは軍服姿の男を見て少し驚いた。この村は街からもずいぶん離れ滅多に軍人は来ないため、軍服を着た兵士を見ることは珍しいのである。
「どちら様で....!?」
とネロウは途中まで言いかけてしばらく呆然としていた。フォティアが、
「ネロウ!元気だったか!」
と言うとネロウは、
「お兄ちゃん?!」
と驚いて言った。ネロウはフォティアの戦死したとの知らせの後、それを受け入れ長い時が過ぎていたのである。そこへ突然死んだはずの兄が現れしばらく自分の目を疑った。しかし間違いなく兄だと分かると以前帰省したときのようにフォティアに抱きついていった。そして、
「お兄ちゃん生きてたの?!戦死したって連絡があったからお母さんも私もすごく悲しんだのよ!今まで何してたのよ!」
と涙を流しながら言った。フォティアは、
「ごめんよネロウ心配かけて。母さんは?」
と言うと、ネロウは、
「お兄ちゃんが戦死したとの連絡を受けてからしばらくして、お母さん亡くなってしまったの。お母さん、お兄ちゃんが入隊後一度帰省した時は少しショックを受けたようだけど、その後はいつも心配していたのよ。でもお兄ちゃんの仕送りのお陰で私達は十分生活できたからお兄ちゃんにはとても感謝していたわ。そこへ戦死したとの軍からの知らせを聞いたときはすごいショックでその後お母さんどんどん体が衰弱して、只でさえ体が弱いのに。お兄ちゃんの戦死で軍から多額の給付が得られて病院にも連れて行くことが出来たのだけど精神的なショックが大きすぎて数日後に亡くなってしまったの。」
と、その後の経緯を話してくれた。フォティアは自分が捕虜となり病院で治療を受けたときに母が現れるという幻覚のことを思い出し、
「あれは幻ではなかったんだ。母さんは死に際、自分のもとに現れたんだ。」
と思った。フォティアは、
「そうだったんだ。母さん...」
とだけ呟いた。そして、二人は家の中に入っていった。家の中は昔のままでフォティアの作った家具は今も健在であった。フォティアは、
「変わってないね家の中は。まだ使ってくれているんだこのテーブルと椅子。」
と言うと、
「お兄ちゃんの作った家具はすごく丈夫くて使いやすいのよ。」
とネロウは返した。二人はその椅子に座って話を続けた。フォティアはネロウにフォース国内に拘束された後の話を説明していった。そして、
「お兄ちゃん、フォース国民になって農業や木工仕事をして暮らしているんだ。実はお兄ちゃんな、結婚したんだ。結婚相手も元々はスコタディ出身で今お腹に子供がいるんだ。」
と話すとネロウは、
「私のお義姉さんになるのね。会ってみたいわ。どんな方だろう。」
と少し嬉しそうに話した。フォティアはその後なぜここに戻ってきたかについてネロウに説明した。スコタディ国がどのようにして建国し、なぜ両国が戦争をはじめたかの経緯、そしてフォース国という国がどういうところであるかということについても。ネロウにはスコタディ国に何も思い残すものは無いためフォティアと共にフォース国へと脱出することにした。フォティアはこれからの脱出に向けてのルートや方法について説明し今晩にはここを離れることをネロウに伝えた。