4.メテオラ・ボード

 こうしてウラノスはスコラーでこれからの人生の基本となる知識、そして精神学を学び浄化と上昇を実践できるようになっていった。そして、いくつもの大人社会を経験し成長したウラノスは、今日メテオラ操縦士への訓練初日を迎えたのである。

 メテオラという乗り物は大きさは様々であるが、基本的に地上から浮き上がって移動する乗り物である。小さなメテオラならわずかに地上から浮き上がり移動できこの星の人間なら浮かすことさえ出来れば、ある程度のトレーニングで浮上移動することができる。しかし、この浮上が難しいのである。

 ウラノスが小型のメテオラ・ボードを制御出来るようになったのは、浄化と上昇を父から褒められた頃からであった。ウラノスはスコラーに通い始めた頃、父にメテオラ・ボードで移動してみたいとお願いしたことがあった。父もまだ無理だとは分かっていたが、これも経験かと思い使わせてみることにした。メテオラ・ボードとは何の変哲もない丸い板状のものである。大きさも小さく人間の歩幅程度のもので、地上から拳一個分ほど浮き上がり移動する乗り物で速度は人が歩く程度しか出ない。そのメテオラ・ボードにウラノスが初めて乗ったとき、

「お父さん、乗ったけど浮かないよ!」

と、ウラノスは少し困った顔で父に言った。

「いいかいウラノス、メテオラを浮かすのにはコツがあるんだ。メテオラと心と身体ともに一体になり、さらに浮きたいなどと欲望があっても駄目だし、焦っても駄目なんだ。これからスコラ―で先生から大切なことを学んでいく過程で何がいけないのか分かる時がくるから焦らず練習しなさい。」

と、父に言われた。ウラノスはしばらくメテオラ・ボードの上で考えていた。その頃からどうしたら浮き上がれるか考えていたのである。それが、大ホールのナオスでみんなと浄化と上昇の練習中に浮き上がった生徒を見てつい声に出してしまった理由でもあった。
ウラノスは、父の言葉を信じしばらくはメテオラ・ボードの練習は行わずスコラ―で学んだ浄化と上昇のことに集中した。その後、ウラノスの浄化と上昇がよくなってきた頃、父から、

「ウラノス、どうだ、メテオラ・ボードに乗ってみないか?」

と言われた。ウラノスは、しばらく浄化と上昇のほうに気持ちが向いていたためメテオラ・ボードのことを忘れていた。ウラノスは、

「お父さん、やってみる!」

と、言うと父の前でメテオラ・ボードの真ん中に立った。このとき父から、

「ウラノス、スコラ―で学んだようにまず浄化と上昇してごらん。」

と言われた。しばらくしてから父は続けて、

「浄化上昇し光に満たされたら、そのまま身体の周辺にも光を広げるんだ。」

と言われ、ウラノスはメテオラ・ボードに載っていることを忘れ父の言われるがままに行った。するとボードが僅かに浮き上がった。父が、

「ウラノス、ゆっくりと目を開けてごらん。」

と言うと、ウラノスは思わず。

「やった!浮いた!」

と叫んだ途端、また地面に降りてしまった。

「あれ!?」

と、ウラノスは落胆の声を出した。しかし、この時ウラノスは心の状態などが浮上に影響するのだと悟った。父は、

「そうだ、ウラノス分かったかい。そういうことなんだ。浮いたからと言って一喜一憂することも駄目なんだよ。どんなことがあっても浄化上昇で光に満たされた状態を維持し、起こった現象にも当然囚われては駄目なんだよ。」

ウラノスは、父の言葉が先生の浄化と上昇で教えられたことと同じであることを知り、すべては繋がっているんだと分かった。ある意味メテオラは人間の心と身体や精神状態を端的に物理現象として発現する「光」の乗り物であり、ましてや邪心などあっては絶対に浮かせないのだとウラノスは理解した。ウラノスのその考えは正しかった。その後、ウラノスがメテオラ・ボードを自由にコントロール出来るようになったのは言うまでもない。このメテオラ・ボードには他に優れた点がある。それは移動中は決して歩いている人や別の乗り物に衝突することはない。それは特別な交通ルールで動いているからではなく、ボードをコントロールすること自体がすでに操縦者の高い精神性にあることで無謀なコントロールをしないと同時にそのような精神状態が自然に衝突などを回避するのである。これは、メテオラの大小に関わらず共通して言えることなのである。