19.赤き星

 真っ白に広がった映像は徐々に暗くなり暗黒になっていった。ウラノスは、浄化と上昇しようと集中し少し藻掻いていたが、映像の中の視界は暗黒の中だった。しばらくすると漆喰の暗黒の中に小さな光の点が現れ、徐々にすべてを埋め尽くしていった。それは宇宙の映像だった。ウラノスはいつの間にはその映像の中の宇宙に浮かんでいた。ウラノスは、

「これは宇宙なのか?」

と思いながら周りを見渡した。どこまでも気が遠くなるように広がる宇宙は全天散りばめられた小さく輝く星々でいっぱいだった。ウラノスは、

「なんて綺麗なんだ。どこを見ても遠くに吸い込まれていくようだ。」

と思いながら浄化上昇のことは忘れ、その状況に浸っていた。

ウラノスの魂よ
お前の過去生を見るがよい
これはお前が白き星に転生する
以前の姿である
この映像はお前をより
成長させるであろう

 しばらくすると一つの星に近づいているのが分かった。その星は近づくにつれて徐々に赤みを帯び始め、さらに近づきその星には海と大陸があるのが確認できた。ほんのり赤く染まったその星には大陸がいくつかに別れており、ウラノスの視界は一つの大陸へと近づいていった。映像はその大陸内での戦をする様子が現れてきた。

「何だろう、この映像は!」

ウラノスの意識は思った。ウラノスはその映像を観察し、

「この星の文明は物質的にの精神的にもずいぶんと原始的に見えるが、この赤き星はいったい?」

と、考えていた。ウラノスの考えどおり赤き星の文明は発展途上の星であった。人間同士の争いや奪い合いなど野蛮な人間がいる一方、穏やかで平和的な人間もいた。テクノロジー面では鉱山などから金属を採掘し精錬技術や加工技術はもっていたため、その技術を使って地上を移動する乗り物や船は作られていた。だが上空を移動するような乗り物まで発明されるほどの文明では無かった。そんな人類が住む赤き星は七つの大陸からなっており、そのうち六つの大陸は一大陸に一つの国が治めていたが、残る一大陸だけは二つの国に別れていた。それがスコタディ国とフォース国である。この二国間では常に戦争が絶えなかった。

 この戦争はスコタディ国がフォース国の領土をわずかずつ自国のために広げようとする侵略戦争なのだ。最終的にはスコタディ国はフォース国のすべてを乗っ取り自国にするつもりなのである。もともとこの大陸は他の六つの大陸同様、一つの国で同じ民族であった。しかし、反政府軍が現れ大陸の一部の自治区を占拠しスコタディ国として独立した。その後武力で領地を広げこの大陸の三分の一ほどがスコタディ国になるほどに占領されてしまったのである。ウラノスはこの戦争をしている大陸の一人の人間の物語を見ていた。それがウラノスの前世のフォティアだ。

 フォティアは戦争をしかけた側のスコタディ国に住む少年である。フォティアの住む地域は農村ばかりで広い畑や森林がありその中に点々と民家がある静かなところであった。戦争中とは言ってもほとんど国境線付近での戦いでフォティアの住む内陸では全くそんな雰囲気は感じないのである。フォティアには父親はいない。体の弱い母と妹との三人暮らしで生活は貧しかった。住処は古びた小屋を修繕し生活をしていた。手先が器用なフォティアは住居だけでなく家具も手作りし、また家の周りも自分一人で柵を作り、小さな畑や木や花も植えそれなりに整えられていた。

 今朝もフォティアは隣村の農園の仕事へと向かうため家を出るところだった。

「母さん、行ってきます。」

と言うと、まだフォティアの腰の高さほどの背丈しかない妹のネロウが、

「兄ちゃーん!」

と言って駆けよってきては、フォティアの足にしがみつき、

「私も行く!」

といって、離さないのである。最近、母親の身体はめっきり弱くなり床に伏せがちで、ネロウの面倒が見れなくなっていた。そのためネロウはいつも一人外で遊んでいた。そんなネロウの様子にフォティアの母は心配しながら見守っていたが、それを知ったフォティアは母親が安心して身体が休まるようにと徐々にネロウを農作業に連れて行くようになったのだ。農家の手伝いによる収入は僅かであったが、フォティア家族はそれで生計を立てていた。収入が僅かなのは決して働き先の農家が低い報酬で働かせているという訳ではない。農家で収穫した作物の大半は王族の命令で軍隊が奪っていってしまうからである。俺達がお前たちを守っているのだから食べ物を差し出すのは当然だろう、というのが彼ら軍人や王族の言い分なのである。

 ウラノスはこの映像を見ているうちに悲しみと怒りが込み上げてきた。そして、いつのまにかウラノスの視点はフォティアになっていた。まるでウラノスがフォティアになったかのように。しかし、自分以外の全体の映像も見える。他の人間が何をしていて何を考えているのかも見えていた。