フォティアの指導顧問としてのサポートも順調に進み軍人たちの体術の仕上がり具合も良くなってきたため、フォティアは次のステップに進めることを指導官に提案した。指導官はその提案に同意をするとフォティアが直接指導をすることとなった。フォティアは軍人たちに、
「数名私の周りに間合いをとって取り囲んでください。」
と言うと、五名の軍人がフォティアの方に体を向けて囲んだ。そして、
「では、どなたからでもよいので私に攻撃してください。複数で掛かってきても構いません。」
と説明すると即座に三名が動いた。しかし、もっとも動きの速い軍人が一瞬にして崩されその場で受け身をとると同時に他二名も動いた。フォティアは止まることなく常に柔らかく地面を滑っているか浮いているかの如く移動し軍人五名のすべての攻撃を捌きながら崩し続けた。軍人たちは皆その場で受け身をとっては体制を立て直し再びフォティアに攻撃を加えるのである。周りで見ていた軍人たちは、
「なぜ後ろからの攻撃もわかるんだ?!」
と呟きながらその動きに釘付けになった。フォティアは一旦軍人たちに攻撃を止めさせ説明をはじめた。
「これをいきなり行う必要はありません。はじめは攻撃する側は直に攻撃せず攻撃しようとする意識だけを向けてみてください。攻撃を受ける側は誰から攻撃意識が来たかが分かるよう意識を研ぎ澄ますのです。実戦で多人数相手にするときは決して止まることなく常に先へ先へと動く必要があります。相手が動いてからでは遅いのです。まずはじめは相手からの攻撃する意識が感じられるように訓練して下さい。それが出来てきたらその意識をきっかけに相手より先に動くのです。これが進むと銃弾もかわせますが、それはまだ初歩的な技術です。それでは詳しく訓練方法を説明します。」
と詳細説明に入った。ここまで来ると指導官も軍人たちと混じって訓練するため、殆どフォティアが訓練指導をしているようなものであった。フォティアの訓練法はユニークでときには軍人たちに笑顔や笑いがあり緊張感の中にも和やかな雰囲気もあった。それは軍人たちの身体の緊張が外れ無駄な筋力を緩ませてくれた。
時は過ぎてゆき、フォティアは農業にも精を出し幾度も農地に種をまいては育てそして収穫する、このサイクルが繰り返されていった。そして、空いた時間には好きな木工細工を手がけていた。同時に軍の指導官顧問としての役目も進み、さらに高度な課題を与えながら多くの軍人の武術レベルを上げていった。そのおかげで何人ものスコタディ国の兵士を無傷で捕らえることもでき、フォティアが治療したときのように薬物付けのスコタディ兵士を更生させ希望する者は自国民として受け入れていったのである。この功績はとても大きくフォティアはフォース国軍から表彰されるまでに至った。すべてが順調にそして充実した生活を送っていた。そんな偉業をなしながらも農家に戻れば平凡な一般農民としての生活を送っていた。
そんなある時フォティアは自分で作った雑貨を納めている街のお店に出向いた。フォティアの木工雑貨は評判でいつの間にか街で売られるまでになっていたのである。実はもともと好きであった木工作業の腕をさらに上げるため、フォティアは以前知り合った街の工房の職人にお願いして木工製作の技術を時々教えてもらっていたのである。そのおかげで雑貨程度のものは十分売り物になるほどの出来栄えで、いつしか街のお店に出回るようになったのである。この時もアネモスと一緒に街に来ていた。フォティアが取引先の店で打ち合わせをしている最中、アネモスは別のお店で首飾りを見ていた。フォティアが用を済ませ、アネモスのいる店に行くとアネモスが、
「どお、似合うかしら?」
と言って身に着けた首飾りをフォティアに見せた。そのとき、その店の店主が、
「奥さんのプレゼントにどうですか。お似合いですよ。」
と言ってすすめてきた。店主は、この辺りで二人が何度も一緒にいるのを見かけていたため、てっきり夫婦だと思い込んでいたのである。アネモスはこの店主の言葉に思わず赤くなった。フォティアは少し収入があったので、その首飾りをアネモスにプレゼントした。アネモスは帰り際、
「フォティア!首飾りありがとう!わたしたち夫婦に見えたんだね!」
と嬉しそうに言うと、フォティアは少しうつむき加減で照れくさそうにしていた。アネモスは初めて会った時から不思議とフォティアといると安心できて好意を抱いていたため、お店の店主に言われた言葉がとても嬉しかったのである。それに対しフォティアはこの国での生活に馴染むことや軍の武術指導の顧問を引き受け忙しくしていたためアネモスに対してそんな感情になる余裕がなかったのである。しかし、すべてが順調に進み気持ちに余裕が出始めていたためか、この一件でフォティアはいつも当たり前のようにそばにいてくれたアネモスを意識し始めたのである。