ある星の綺麗な夜の話である。いつになく空気が澄み切り雲一つない夜空には満天にちりばめられた星々でいっぱいになっていた。そんな星空につられてフォティアとアネモスは食後の散歩に出かけた。二人が田園の中をゆっくり歩いていると時々心地よいそよ風が吹いてきては田んぼにたわわに実った穂を揺らしカサカサと音を立てているのが聞こえていた。フォティアは、
「そろそろ、収穫時期かな。」
と呟くとアネモスは、
「そうね、フォティアと初めて出会ったときもちょうどこの頃だったわね。」
と返した。二人は星々を眺めがら何気ない普段の出来事や感じたことを会話をしながら散歩を続けていた。あまりに綺麗な星空をもっと暗がりで見たいと自然と二人は最初に出会った一本の大木がある丘の上まで歩いてきた。二人はそこで歩くのを止め、星々を静かに眺めていた。しばらくしアネモスは夜空を見上げながら昔のことを話しだした。
「昔ね、今の両親のもとへ養子に来たときお爺ちゃんがいてね、私とても可愛がってもらっていたの。私、お爺ちゃんのこと大好きだったわ。そのお爺ちゃんが亡くなる数日前に不思議なお話を私にしてくれたの。」
フォティアは、何も言わずアネモスの話を静かに聞いていた。
「この国の古い言い伝えらしくて、今ではそのことはほとんどの人が忘れてしまったのか語らなくなったそうなの。それは人が死に近づくと現れるそうよ。お爺ちゃんは言ってたわ。人は何度も生と死を繰り返し、そして審判が終わった者は死に際、空に大きな星を見るそうよ。黒き星が見えたら闇の星へ、白き星が見えたら光の星へ生まれ変わるって。私、その話を聞いたとき直感だけど真実じゃないかって思ったわ。少なくとも人は何度も生まれ変わりながら経験を積み重ね何かを学んでいるような。そこで正しい学びや知識を得ることで自分自身を成長させることができるか否かが最終的にどちらへ向かうか決まる気がするの。私、お爺ちゃんからこの話を聞いてからずっと考えていたらいつの間にかそんな風に考えるようになったの。」
と話すと。フォティアは
「僕も何となくだけどその話は真実のような気がするな。アネモスの思っていることは正しいと思うよ。自分はいろいろと苦しかったことあったけど、アネモスも含めていい人たちに出会えたお陰で道を誤ることなく正しい学びや経験が出来ていると思っている。白き星に行けるかどうかは分からないけどね。」
と返した。アネモスは、
「そうよね、フォティアは今までいろんなことあったけどすべて自分の成長に正しくつなげてきたと思うわ。お爺ちゃんも沢山経験し学び、そして見えたのかしらね、その星を。」
と言いそれに対しフォティアは、
「きっと、お爺さんはすでに白き星が見えていたんじゃないかな。だから、アネモスにこの話をしたんだと思うよ。」
と応えた。アネモスは、
「私達も白き星に生まれ変われるといいわね。」
と返した。フォティアは、このとき自分の今の生活について思っていることをアネモスに話し出した。
「僕はこの今の生活がこのままずっと続けていけたらと思っているんだ。こんな生活はスコタディにいた時は夢にも思わなかった。いろんな真実を知り戦争が続いている中でもこうして穏やかに暮らせていることにとても感謝しているんだ。」
と言うとアネモスは、
「私もフォティアが来てから以前よりも毎日の生活がとても楽しくてこのままこの生活が続いたらっていつも思っているわ。」
と言うと、フォティアは、
「僕も君といると楽しいしこころも休まるんだ。しかし、いまだに戦は続いているのも事実だ。だから、もし短い人生になったとしても毎日悔いのないようにこの恵まれた環境のもとで経験し学び生きていきたいと思っているんだ。」
と自分の思いを話した。それだけが言いたかったのだが、少し間をおいてフォティアはいきなり、
「アネモス!君のことを愛している!僕と結婚してくれないか!」
と言った。それは、フォティアの突然のプロポーズだった。フォティアはアネモスを意識し出してからずっと気になっていたのである。そして、自分の気持ちに正直なフォティアは、こころの中でこの人しかいないと決めていた。そして、告白するタイミングを伺っていたのだが、この時はそのことは考えていなかった。ただ二人でいるこの穏やかで静かな時間に浸っていたかったのだ。逆にそれが構えること無く素直にそのまま言葉が出たのかにみえたが、実はこのプロポーズ、言ったフォティア本人が一番驚いていた。フォティアは自発的ではなく殆ど無意識にプロポーズの言葉が口から出ていたのである。プロポーズには最適な場所とタイミングであるのを、それはまるで何か別の意思によって言わされたかのようだった。それを聞いたアネモスは躊躇することなく、
「あ!はい!」
と返事をした。今まで何のそぶりも見せていなかったフォティアだっただけに、アネモスは前触れのない突然のプロポーズに涙を浮かべながらとても幸せそうに返事をした。涙にぬれたその瞳にはフォティアの顔と輝く星々が映っていた。