数日後、フォティアはアネモスとの結婚の承諾を得るためアネモスの両親がいる母屋に向かった。アネモスの両親とは毎日顔を合わせて野良仕事をする間柄ではあったが、この時ばかりはフォティアも少し緊張して結婚のことを話すと、両親は快く受け入れてくれた。両親にとってフォティアは家族同然の存在であり誠実で働き者の息子のような存在に思っていたため、とても嬉しい知らせだったのだ。その後、フォティアは両親から仮住まいとして借りていた小屋を譲られたため、小屋を増築しアネモスと生活するのにも十分な家へと改築していった。その間にも軍には何度か顧問の業務のため出向いていたため将校にはアネモスとのことを報告した。将校はフォティアから結婚の話を聞くと、
「フォティア先生、おめでとうございます。私が先生を仕事斡旋のために農夫婦の元へお連れしたとき、お二人を見てすごくお似合いだと感じていたのですよ。」
と言われた。フォティアは、
「そうでしたか。改めてアネモスを連れてご挨拶に伺います。将校さんがアネモスとの距離を近づけて下さったお陰でもありますから。」
と言うと、将校は微笑みながらも少し照れていた。数日後、フォティアとアネモスは軍の将校の元へと向かった。アネモスは軍の基地施設に近づくと、
「大きな施設ね!この建物どこまで続くの?!フォティア、こんな大きなところで教えていたの?!」
と、いろいろ驚いては質問を浴びせていた。二人は施設内に入り将校の部屋へと向かっていった。その間に出会う軍人が皆、
「先生!」
と言って、その場で立ち止まり敬礼したり、
「フォティア先生!」
と言って会釈したりとまるで英雄にでも会っているかのような対応だった。フォティアにとっては軍基地内では日常的なことだったが、アネモスは小声で、
「フォティア先生だって!」
と言って、少しクスクスと笑っていた。フォティアは、
「何がおかしいだよ。」
と、やはり小声でアネモスに向かって返した。二人は将校の部屋に入るとそこには将校と指導官が待っていた。フォティアはアネモスに武術訓練の指導官を紹介した後、改めて二人が結婚したことを報告した。将校はアネモスに、
「アネモスはこの基地に来るのは、ずいぶん久しぶりだね。」
と言われ、
「え!私初めて来たと思いますけど!」
と、アネモスは少し驚いて言った。将校は、
「当時アネモスはまだ幼児だったからね。私もまだ実戦に出ていたころで私が君と君の母親をスコタディから保護したんです。その時は君も君のお母さんもとても衰弱しててね。特にお母さんは大怪我していたため助けることが出来ませんでした。その後、アネモスはしばらくの間この基地の病院で治療しながら暮らしていたんですよ。君は順調に回復していったので、私は君の引き取り先を探させていたんです。しかし、すぐには見つからずその間、君は覚えてはいないと思いますが、私が君を預かっていたんです。指導官の彼も当時私の部下でしたので君のおもりをしたことがあるんです。」
と話すと、指導官は思い出したかのように、
「あ!あの時の...そうだったんですね。ずいぶん昔の話で全く気が付きませんでした。」
と、驚いていた。将校は、
「しばらくして子供のいない農夫婦、つまり君の今のご両親が君を養子として迎えたいと私に連絡をしてきたので引き取って頂いたのです。その後、私は何度もご両親の家に行っては君の成長ぶりを確認していたんです。君が物心を着いた頃にはあまり顔を出さなくなりましたがね。」
と当時のことを話してくれた。アネモスには全く記憶になかったが、この話を聞いてなぜ将校さんが時々自分の家に訪問していたかの理由がよく分かった。アネモスは、
「そんな経緯があったのですね。私、知りませんでした。」
と言うと将校は、
「このことは話す必要は無かったかもしれませんが、ちょうどご主人であるフォティア先生もご一緒ですし、つい話してしまいましたが。」
と付け加えた。このとき指導官は訓練指導中だったため中座したが、三人はしばらく会話を続けた。その後、将校から、
「せっかく基地までご足労頂いたのですから、先生、訓練状況を確認していって下さい。アネモスもご主人の顧問の仕事ぶりが気になるでしょうし。」
と言うとアネモスは、
「気になります!楽しみだわ、フォティア先生!」
と少しフォティアを茶化した。フォティアは挨拶だけと思っての訪問だったが、ついでなので少し訓練の状態を確認していくのもいいかと格納庫に作られた専用の訓練施設に三人で向かった。そして訓練場所に入った。その途端大声で、
『フォティア先生!ご結婚!おめでとうございます!!』
と、百人は超えているであろう軍人たちから一斉に歓喜でお祝いをされた。フォティアとアネモスはあまりの突然の出来事にとても驚いた。さらに軍人たちからは花束や贈り物を沢山プレゼントされ、そして、軽い飲み物を用意し全員で乾杯まで行った。ちょっとしたサプライズである。将校は、
「驚かせてしまいましたかね。軍のみんなが先生のご結婚を聞いてからどうしても何かちょっとした企画をしたいと言い出したので、勤務中なので盛大ではありませんが、このような形でささやかですがお祝いすることを許可しました。これも先生のお人柄のなせる技だと思います。」
と話された。フォティアはこれまで指導官へのサポートにとどまらず訓練状況に応じて軍人たち一人一人個別にその個性や性格に合わせて訓練メニューや指導方法を考え対応したり、時には戦闘によるメンタル面の悩みや生活面のことなども丁寧にケアーしていたのである。そのため軍人たちは皆フォティアにとても信頼と親しみがあったのだ。フォティアはあまりの思い掛けない出来事で恐縮してしまいアネモスとともに全軍人一人一人に声をかけながらお礼を言って回った。軍人たちは皆自分のことのようにフォティアとアネモスの結婚を喜んでくれたのだった。