56.作戦

 時が過ぎ、アネモスはフォティアの子を身ごもっていた。毎日がフォティアにとって順風満帆な生活が続いてたのだが、ずっと心残りがあった。それはスコタディ国に残した母と妹のネロウのことである。フォティアは自分がこんな恵まれた環境にいることに母やネロウに申し訳なく罪悪感さえあったのだ。フォティアはアネモスに、

「僕が前から話していたスコタディにいる家族のことだけど。」

と言うと、アネモスはフォティアの言いたいことを察し、

「この国に連れ出したいのよね。」

と言った。そして、

「私は賛成よ!」

と続けて言うと、フォティアは、

「ありがとう。それで、どうやってスコタディから出国させるかだけど、軍の将校さんに相談してみようと思うんだ。」

と話すと、

「そうよね、私たちだけではどうすることも出来ないから軍の協力は必要だと思うわ。」

とアネモスもそのことに賛成だった。
 数日後、フォティアは顧問業務のために基地で訓練サポートを行っていたが、この日は訓練が終わると将校に会いにいった。そして、フォティアがスコタディに残した家族を救出したいという旨を将校に伝えると将校は、

「先生、お話は理解致しました。しかし、これは大変危険を伴うことは間違いないです。少し考えさせてもらえないでしょうか。我々の中にもスコタディ国からの救出などを専門に行う作戦部隊がありますのでその部隊と相談して後日連絡いたします。」

と言われ、フォティアは軍基地を後にした。数日後、将校から連絡がありフォティアは基地の将校の部屋に直接向かうと、そこには数人の軍人がすでに待機していた。そこにいる軍人は潜入や救出などをエキスパートとする部隊で、皆フォティアの訓練指導で知っているメンバーであった。その中の一名が部隊の隊長で今回のフォティア親族救出作戦の指揮を任されていた。隊長は、

「フォティア先生、今回の作戦には先生の参加が不可欠です。先生が元スコタディ国の国民であったことでスコタディ軍人に少しでも怪しまれないようにするためです。何かあっても先生の身元はスコタディ軍に記録があるため行方不明扱いになっているかもしれませんが私たちが同行するよりは怪しまれません。しかし、私達が先生と共に行動しスコタディ国に捕まることになれば先生も危険にさらすことになります。私達は皆先生とともにスコタディに潜入し先生をサポートしながら作戦を進めたいと申し出ましたが、危険すぎるとの上層部の見解で許可がおりず、残念ながら先生と行動を共にすることが出来ません。スコタディ国内潜入後は先生お一人で家族を目的地点まで連れ出して頂きたいのです。ここまでのことはご理解していただけましたでしょうか。ご理解していただければ作戦をご説明致します。」

と話をするとフォティアは、

「了解しました。皆さんのそのお気持ちだけでとてもありがたいです。続けて下さい。」

と応え、隊長が説明に入った。

「では、潜入方法から説明致します。現在スコタディ国と戦闘中の地区がありますが、先生と私達はそこに向かいます。ただし、先生はスコタディ国の軍服を着ていただきます。戦地では我々の兵士が先生を攻撃しないように先生の軍服に印を付けておきます。私たちがうまくサポートしますので先生は逃げるようにしてスコタディ国に潜入して下さい。以後の行動は先生にお任せすることになります。潜入できましたらスコタディ軍基地に向かいご家族に着ていただく軍服などの装備を持ち出し家族のもとに向かって下さい。そして救出方法ですが、予定日までにある場所に向かっていただきます。同じく戦闘中の場所です。そこはスコタディ軍に奪われた施設がありますが、その施設には地下道が隠されておりそれは国境を超え国内まで伸びています。もちろん、その地下道はスコタディ軍には気づかれてはいません。我々の兵がその地下道入口で待機していますからそこから脱出していただきます。先生とご家族が脱出完了後その地下道は爆破します。概略はこのような作戦になります。先生がこの作戦を受け入れて下されば我々は準備に取り掛かりますが時間がございません。脱出の地下道が万一スコタディ軍に見つかった場合、即その地下道を爆破するため今回の計画遂行が出来ないからです。今が絶好の機会ですので出来る限りお早いご決断をお願い致します。」

フォティアの中ではこの作戦に参加することはすでに決断していたが、アネモスにこのことを話さなくてはならないためこの場では即答しなかった。
 フォティアはアネモスの元に戻り今回の作戦のことを説明した。アネモスは、フォティアがそんな危険を犯さなければいけないとは考えていなかったため返答に躊躇した。しかし、アネモスはフォティアを信じて、

「必ず生きて帰って来ると約束して。」

と涙して言うと、フォティアは、

「約束するよ。戻ったら、また今まで通りの生活を続けよう。」

と応えた。フォティアは早速軍部に連絡し作戦に参加の旨を伝えた。作戦準備にはそれほど時間を要しなかった。フォティアも元軍人であったため作戦の打ち合わせもスムーズに進み、翌日には決行となった。