ウラノスの父の操縦するメテオラは速度を落とし、徐々に目的地上空に近づいていた。
「もう目的地に着くのかな?」
とウラノスが呟くと、メテオラは上空で停止した。出発してからここまでの移動時間は僅かしかかかっていない。例えるなら、体力のある人間が全速力で走り続けられる時間とでもいったところだろうか。その間の移動距離はこの星の四分の一ほどである。メテオラ浮上までに要した準備時間に対して、圧倒的に空中を移動する時間は僅かなのである。ウラノスを乗せたメテオラは、その後ゆっくりと地上に降りていった。地上にはお皿のような下部ドッキングベイが見えてきた。ゆっくりとそこに接続するとコントロール・ルームが徐々に暗くなっていった。丸いお皿のような上部ドッキングベイがゆっくり降りてきてメテオラに接続しているところだった。そしてコントロール・ルームの壁が白一色になると操縦席から立ち上がった父はコントロール・ルームから出てウラノスに近づいていった。
「ウラノス、どうだった初めての乗客用メテオラは?」
と父が聞くと、ウラノスは、
「お父さん、感動したよ、僕!」
と言った。その後二人は、到着した目的地でメテオラを降機しスタッフ・ルームへと向かった。その途中ウラノスは、
「お父さん、僕、スコラーで勉強しながらいろいろな大人社会の学びで社会体験をしてきたけど、このメテオラ操縦が一番感動したよ!」
と話した。父は黙って聴いていた。
「僕ね、このメテオラの操縦、それも乗客用のメテオラ操縦士になりたい!」
と、ウラノスは続けて話した。父はそれを聞くと、
「ウラノス、お前にはまだまだ時間があるし学ぶこと経験することがある。今回の体験だけで決断するのでなくよく考えてから決めなさい。今のウラノスの感動は一過性のものかもしれない。もし、この仕事に就いても慣れてしまえば惰性になり緊張感も薄れ感動も無くなることもある。場合によっては仕事が疎かになるかもしれない。いいかいウラノス、仕事とはそうであってはいけないんだ。感動したから、かっこいいからなどということだけで判断してはいけないんだ。お父さんは、決して感動することや面白そうなどと言った感覚を否定しているわけではないんだよ。そう言った感情だけで判断しては駄目なんだ。ウラノス、そのあたりをよく掘り下げて考え続けなさい。社会に出て仕事をする意味と自分が何を目的に生きているのかを。」
と話した。ウラノスは父の話を聞いているうちに興奮していた自分から我に返り、素直に、
「はい、お父さん。」
と返事をした。父は続けて、
「それから、毎日の浄化と上昇はお父さんがウラノスに投げかけた問を正しく導いてくれるから決して忘れずに行うようにしなさい。」
と言われた。その後、ウラノスはスコラーに通っている間、他にも多くの大人社会の学びを体験していった。その間も初めてメテオラに搭乗したときの父の言葉を忘れず自分なりに何度も深く考え続けた。そして、ウラノスのスコラー卒業が近づいてきたときにはウラノスは自問自答しながらも自分なりの結論に至っていった。
「僕はいろいろな社会体験してわかったことは、人間は一人では何も出来ないってことだ。衣食住はもちろん、あらゆるインフラや何もかもだ。メテオラ一つ浮上させるのにもどれだけの人間が関わっているかわからない。社会はそのバランスで皆が助け合いながら回っている。一人の不誠実な行動は場合によっては人々の生活に支障をきたしたり、もしかしたら大事故にも繋がることもある。仕事をするということはそれを担うだけの覚悟と責任を持つということだ。そうやって生かされている人間は何を目的に生きているのだろうか?」
ウラノスは、このころスコラーで先生の言われた言葉を思い出した。それは同時にウラノス自身の『なぜ人間として生まれてきたのか』というテーマの答えにも繋がっていった。先生は、
「皆さんはこれからの人生の中でいろいろな経験をします。良いこともあれば悪いこともあるでしょう。そんな中でも常に自分自身を見つめ、悔い改め、精神の成長をし続けて下さい。自分の中にある僅かな闇に魔に引き込まれないような精神を作るのです。皆さんがこの世を去っても魂は永遠です。しかし、精神の成長は生きている間にしかできないことなのです。」
と諭された。ウラノスは、
「人間には闇がある。けれどそれに決して飲まれない光の精神へと成長し、そして時が来ればこの世を去るということなのか。」
と心の中で思った。ウラノスはその考えを基本にもう一度今までの大人社会の学びで体験したことについて見直していった。その結果、ウラノスはやはり父と同じメテオラ操縦士になろうと決意したのである。その判断基準は社会に役立つ仕事であることはもちろん、今までの経験から自分にはその才能があると感じたこと、そして自分自身にとって最も厳しい仕事になると考えたからである。言い方を変えれば自分の人生の中で最も精神を成長させられるという判断である。これがウラノスがメテオラ操縦士になろうと決めていった過程であり理由であった。