62.魂の行く先

 フォティアはネロウの手を引き脱出の地下通路のある建物に向かって走った。エダフォスは二人の様子を目で追いながら、

「くそ...フォティア!」

と言い、持っていた拳銃をフォティアに向けた。しかし、

「なんだ...よく見えね!」

と呟いていた。死にかけていたエダフォスの目にはフォティアの放つ光が見えていたのである。そして、拳銃を撃とうと狙うのだが、どうしても銃口が下がり照準が定まらないのだ。フォティアの放つ光の波動はエダフォスの闇の力を奪い無力化するのである。フォティアはエダフォスがこちらを狙っていることには気付き意識していたが、今はネロウとともに目的の建物に移動することに集中していた。エダフォスは最後の力をふり絞り、やみくもに引き金を引いた。

「死ねフォティア!
 お前も道連れだ!」

とエダフォスが叫ぶと同時に一発の銃声があった。その銃弾の先はネロウに向かっていた。フォティアは弾道がネロウに向かっていると瞬時に察知しネロウを自分の方に引き寄せようと思ったが間に合わないと直感し咄嗟に自分の体を盾にすると、銃弾はフォティアの脇腹に命中した。フォティアは倒れ込みそうになるのをなんとか踏ん張りネロウを抱えて建物内に入った。フォティアは急いで地下道に通じる部屋に向かおうとするのだが、その間にも腹部からの出血が止まらなかった。ネロウが、

「お兄ちゃん、すごい出血!
 早く止血しないと!」

と言うがフォティアはネロウの言うことも聞かず、兎に角地下通路が隠してある地下室への階段を探していた。

 一方、その時エダフォスは息絶える寸前であった。仰向けになり空を見つめながら、

「くそー..、何であいつが生きているんだ...俺が何したって言うんだ..」

と呟いていた。意識が遠のいていく中で、すでに周囲の音が聞こえなくなり視界も徐々に暗くなり始めていた。そのときエダフォスは空のある一点に視線を向けていた。そして、最後にかすれた声で、

「なんだ...あれは...黒い大きな.....」

と言って息絶えていった。

 フォティアはフォース軍でもらった建物の見取り図を頭に叩き込んでいたが、腹部の焼けるような痛みで意識が遠のきそうで集中できず手間取った。しかし、何とか目的の地下室にたどり着き、その部屋の中に入った途端フォティアは倒れ込みネロウに向かって、

「ネロウ、床を三回叩くんだ!
 何か硬いもので叩け!」

と苦しそうに指示した。ネロウは周りを見渡し少し崩れた壁の破片に目が止まり、急いでその破片で床を三回叩くとその途端一部の床が崩れ落ち地下道に向かう階段が現れたのだ。そこにはフォース国の軍人が階段下ですでに待機していた。合図と共に床を破壊する手はずだったのだ。
フォース軍の軍人は負傷したフォティアを数名で抱え、ネロウと共に地下通路を急いで進んでいった。しかし、地下通路は負傷者を抱えて通るには決して広くはないため手間取りその間にもフォティアの腹部の出血は酷くなるいっぽうだった。そして全員が何とか地上に出て安全な場所まで移動すると別に待機していた兵士がその通路を即爆破し、その後急いでフォティアとネロウを車両に乗せ近くの軍事基地へと向かった。

 基地にはアネモスや将校たち軍人が待機していた。フォティアには黙っていたがアネモスは将校にお願いしてフォティア達が脱出後に向かう基地にいさせてほしいと頼んでいたのである。
 フォティアとネロウを載せた車両は基地に向かってもうスピードで走っていく中、車両後部座席の床はフォティアの血で染まっていた。ネロウは出血が止まらないフォティアの傷口を必死に押さえ、

「お兄ちゃん死なないで!」

と涙を流しながら言い続けていた。
 しばらくして基地に着くと、アネモスをはじめ将校や指導官そして当基地に配属されているフォティアの教え子たち軍人が全員車両に集まってきた。フォティアは出血している腹部を押さえながら車両から降りようとするが地面に倒れ込んだ。それを見た指導官が即座に待機中の救急隊に応急処置を指示した。アネモスはフォティアの血だらけの腹部をみて驚き、

「フォティア!!
 私よ!
 アネモスよ!」

と言うと、フォティアは、

「アネモス...来てたんだね...よかった。」

と苦しそうに小声で話した。アネモスはフォティアの血だらけの手を両手で握り締め涙を流しながらフォティアの顔を見つめると、フォティアは、

「ごめんね...
 無事には帰れなかった..」

と言って、アネモスに約束を守れなかったとこを謝っていた。周りに集まってきた軍人たちも心配そうに声をかけているなか将校が、

「フォティア先生!!」

と言ってフォティアの目の前まで近づくと、フォティアはもう助からないことを悟り、

「将校さん...私の書き残した...手紙をお読み下さい。
 そこには軍人のみんさんと...将校さんへ伝えたいことが書いてあります
 ...それと...アエラスじいちゃんに...最後の...お別れを...
 してきました。」

と言うと将校は涙を流しながらうなずいていた。そして、

「アネモス..お腹の子と...ネロウを..頼むね
 もっと...一緒にいたかったけど...とても...幸せだったよ
 いままで...ありがとう...」

と言って息絶える寸前であった。そして、最後にフォティアは空を見上げ、

「空に...大きな..白い星が...言い伝えは...本当...」

と小さな声で話すと、

「そうか、じいちゃんもこれを見ていたんだ。
 よかった。」

と、こころの中で思い静かに目を閉じていくと、その目尻からは一筋の涙が流れ落ちフォティアは息を引き取っていった。
その顔は決して苦しそうではなく、何かを全うしたという達成感というか安堵感のようなとても優しい穏やかな顔であった。