68.もう一つの役目

 ウラノス、アネモイのペアーによるメテオラ操縦技術は回数をこなす度にレベルを上げ、メテオラ運営組織側にも乗客からの声が届くようになってきた。
 乗客側からは二人のメテオラ操縦はとても快適で降機後は体が清まり光で満たされるとか、航行中は短時間にもかかわらず今までになく深く眠れたとか、逆に航行中はとても頭が冴えて考えていたことがすぐにまとまったなど、いろいろな好評があった。その結果、組織側からは二人を大規模クラス操縦士に格上げするかの審議に入った。そのため二人の操縦するメテオラには乗客として数名の審査官が搭乗し覆面審査が行われはじめた。当然二人にはそのことは一切伝えられていない中で、密かに日を変え数回に及んで審査が行われ判定されていったのだ。

 そして審査終了から数日後、二人は運営組織から呼び出された。そこはこの星にいくつかある運航管理局の一つでウラノスたちの所属する地域を所管する組織である。二人はその局長からこれまでの覆面審査のことを説明され、その結果、無制限操縦許可を言い渡されたのである。それはすべてのメテオラ操縦士最上位の認可で大規模クラスの乗客用メテオラ操縦が可能となるということだ。管理局からの帰りがけアネモイが、

「驚いたわね、まさか密かに審査されていたなんて。教官もそんなことがあるなんて教えてくれなかったし。」

と言うとウラノスは、

「知っていたらいつ審査されるかと構えてしまうから、やはり知らないほうがいいけどな。」

と返した。この審査で認可を受けた者たちへは管理局側から覆面審査のことは他言無用と言い渡されていたので誰も教えてくれなかったのもウラノスは納得した。しかし、この二人のようなケースはとても珍しい事例なのである。夫婦で操縦パートナーとなり大規模クラスの乗客用メテオラ操縦士というのは今この星で生きている人類の中ではそのような経験者はいない。もちろん過去にはあったろうが現存する記録にはないのである。

 二人はこの認可後すぐに大規模クラスの操縦を開始した。もちろんいつも通り航行は順調で全く問題はないが、やはり乗客数が倍増するため出発前の波動調整に今まで以上に時間を要した。しかし、これも操縦士自身の能力向上と同時に精神性の向上のための試練であることは納得の上でのことで二人は常にその課題を克服するための惜しみない努力を続け、経験値を上げていったのである。

 そんなある運航後の話である。この時はウラノスが副操縦士として乗客の波動調整を担当した。多くの乗客がメテオラから降機し下部ドッキングベイ内通路を通過していくのをウラノスは一人一人見送りながら、乗客からのとてもよい波動が伝わってくるのを感じ取っていた。そして最後に年老いた男性乗客が一人ゆっくりと降りてくるとウラノスの前で立ち止まり、

「なかなか、えー、乗り味じゃったわ。」

と言われた。ウラノスは、

「ありがとうございます。またのご利用お待ちしております。」

と挨拶した。すると老人は、

「残念じゃが、次はないと思うがのう。
ところで操縦士さん、あなたはメテオラで物を運んだり人を運んだりしておるが、それ以外のお役目をご存知かな?」

と聞かれた。ウラノスは何のことか即答出来なかったため、

「大変申し訳ございません。私は存じ上げておりません。失礼ですが、それは何かお聞きしてもよろしいでしょうか?」

と老人に尋ねると老人は、

「よく自分で考えるとええですわ。あなたは、すでに気が付いているのではないですかな?」

と言って、老人はウラノスに軽く会釈してゆっくりその場を離れていった。ウラノスは、その場で考えていると、以前から操縦の時に感じていたことがあったため、もしかしてそのことを言っているのかと思った。

「もしかして、この星アスプロ自体にメテオラを通じて光を送って浄化していることだろうか。」

ということを。
 メテオラを航行時に操縦士は星全体を包み込むまで意識を広げるのだが、その時星が光の塊として意識できる。しかし、航路上に光の弱い箇所が感じられると航行中にウラノスはその箇所に光を取り戻すようにメテオラを通じて光を送るのである。これは、アネモイと二人で気が付いたことで、このような行為を行うとメテオラの超高速航行がとても安定することがデーターからも分かったため毎航行時必ず行っていたのだ。このことは訓練時には教えられることはない。それは各自の技能を上げる過程でおのずとそこに行きつくからだ。逆にそこに気が付かないものは操縦士としては半人前なのである。
 ウラノスとアネモイはこのことを中規模クラス操縦時にすでに無意識に行っていたのだ。当局はすでにその点も審査したうえで二人に無制限操縦の認可を与えたのである。だが、大規模クラスになるとこの効果が顕著に現れ二人はこれが航行にとても有効であることが明確になったのだ。その行為はいわば星自体の浄化なのである。そのときウラノスの意識に、

「そうじゃよ。」

と老人の優しい声が飛び込んできた。ウラノスは、

「え!」

と、一瞬声に出した。老人は少し離れた場所でウラノスに背を向けて立ち止まっていた。ウラノスはこころの中で、

「ありがとうございます!」

と言って深くお辞儀をすると、老人はウラノスに背を向けたまま微笑み、再びゆっくり立ち去っていった。ウラノスはその初めて会う老人になぜか不思議と懐かしさを感じとっていた。

 その後、ウラノスはこの不思議な老人のことを父に話したことがあった。父の話では、メテオラ操縦のもう一つの役目を知っているということから間違いなく元メテオラ操縦士に間違いないであろうとのことだった。父は、

「お前もそれが分かるまでになったんだな。」

と嬉しそうに話していた。