50.審査

 将校は、フォティアのその動きに見覚えがあったため一旦手合わせを止め、詳しい話を聞くためフォティアを自分の部屋に招いた。

「君は、このような技を誰から教えられたのですか?君も知っている通り私ももともとはスコタディ国出身ですが、君のような格闘を行う軍人は見たことがありません。ただし、それに近い動きをしていた人物は知っています。私はその方に指導を受け鍛えられましたが。しかし、君の動きはそれをも上回っているというか質が違います。」

と将校が聞くとフォティアは、

「自分は子供の頃、働き先の農家のじいちゃんから武術を教えられ、それをもとに軍の訓練で独自に技を極めました。教えてもらったじいちゃんは若いころに軍で指導官をしたことがあったと聞いていますが。名はアエラスと言います。ご存知でしょうか?」

と言うと、将校はその名を聞いてまさかと思ったが同時に納得もした。敵うわけがないと。

「君は、アエラス先生のお弟子さんだったんのですか!私が指導を受けた人物と言うのがそのアエラス先生です。私は訓練生として軍に入隊したとき、ちょうどアエラス先生が指導者として招かれました。あまりの厳しい訓練であの時は数日のうちに音を上げて軍を去ったものも少なくありませんでした。」

フォティアは、

「アエラスじいちゃんからは若かった頃の話を聞かされたことがあります。じいちゃんはその頃の自分のことを愚か者だったっと悔やんでいました。」

と言うと将校は、

「そうですか。当時は本当にとても恐ろしい先生でした。しかし、今我が軍での訓練には私が叩き込まれたその時の要素を取り入れた訓練になっているんです。」

と聞かされると、

「訓練の様子を拝見していて武術技を用いていることは分かっていました。」

とフォティアが応えると将校から、

「しかし、君の今の手合わせを僅かな間見せていただいたのですが、私の知っているアエラス先生のそれとは別次元に感じたのですが。それとなぜ君は敵を傷つけずに戦っていたのですか?」

と聞かれた。

「アエラスじいちゃんの若い頃のことは実際にはよくわかりませんが、ただ、今ここで見ていただいた手合わせが僅かではありますがアエラスじいちゃんの現在を語っているではないかと思います。そのじいちゃんから学んだ武術の一面を使っただけです。じいちゃんは今のようなレベルをはるかに超えた存在なんです。」

と、フォティアは応えた。さらに続けて、

「それからなぜ自分が相手を傷つけない戦いをしていたかと言いますと、それはじいちゃんから言われたからです。決して人を傷つけるなと。傷つけない戦い方を自分で考え実践することを。それが軍人になるときのじいちゃんと自分の約束でした。自分はこのことで軍の訓練中ずっと悩んでいましたが、それはとても大切なことを気付かせてくれました。」

とフォティアは説明した。将校は少し涙目になっていた。あれほど厳しく凄まじかった殺人格闘訓練を指導していたアエラス先生がそんなことをおっしゃるとはと感動したのと同時に、そんな言葉を発するアエラス先生を想像するとなぜか泣けてくるのである。将校はその話の後、

「君にお願いがあります。フォース国民権を取得できましたら我が軍基地の武術指導の外部顧問をお願いできないでしょうか?もちろん農家の仕事をメインで行てください。顧問の方は片手間で構いません。お返事は審査を通過した後で結構です。考えておいてください。」

と提案された。フォティアは、少し困惑しながら、

「そうですか、分かりました。考えてみます。」

と応えた。その日の夕方、フォティアに面接の日時が伝えられたのだが、それが翌日の午前中だった。フォティアは面接は数日先だろうとのんびり構えていたが、明日と聞き少し戸惑った。顧問になる件をまだ何も考えていなかったからだ。
 翌日、予定通り面接となった。フォティアが面接室に入るとそこには五名ではなく六名の面接官がいた。フォティアをサポートしていた将校が立ち会っているのは予定通りだが、もう一名加わっているようだった。実際、書類審査まで通ればよほどのことがない限りフォース国民の権利は得られる。予想通り、審査員は特に問題視はしていなかったため面接はスムーズに終えることが出来た。審査結果は後ほど言い渡されるとのことであったが、最後に将校が話をした。

「予定では五名の面接官で行う予定でしたが、一名増やさせていただきました。彼は今、訓練生の指導官で私がスコタディにいたときの元後輩です。つまり、私と同じようにアエラス先生の訓練を受けてきた軍人です。前回の手合わせのとき居合わせていなかったので今回の面接に立ち会わせました。彼もぜひ君に会いたい言うので。」

と話すと、その指導官が、

「まだ、面接の結果が出たわけではありませんが、審査が通りましたらぜひ武術指導の顧問として助言をお願い致します。」

と言われた。将校よりは若い指導官だがフォティアに比べればずっと年上である。そんな指導官が自分のような若輩者に頭を下げてお願いされてしまいフォティアは恐縮してしまった。しかし落ち着いて、

「結果を頂いた後に改めてお返事させていただきます。本日はありがとうございました。」

と丁寧に応えた後、一礼して面接室を退出した。