44.作戦

 エダフォスは父親の部屋から参謀本部の戦略報告書を密かに持ち帰り、そして数ある作戦の中に偽情報による作戦を画策し追加していった。
 持ち出した報告書の作戦には地図が添付されておりそれに従って戦略がまとめあげられていた。エダフォスはその地図に描かれている、ある国境近くのフォース国軍中枢基地に注目した。エダフォスは、

「ちょうどいい所におあつらえ向きのでかい基地があるじゃないか。こいつを利用するか。」

と呟きながら、地図に細工をしていた。そこは、国境壁を超えたすぐ先にある軍事基地であった。エダフォスはその基地の場所を国境奥地に場所を変更し、さらに基地の規模を小規模基地と改ざんしたのだ。そして、その基地を攻撃するための動機づけを加えていった。その内容とは、諜報本部で入手した情報ではその基地は拡張工事が行われており軍事施設の補給や戦闘装備が機能しない時期が短期間あり、基地の兵士や国境警備も一時的に手薄になるとしたのだ。そして、その明確な日付を記載した。さらに、この場所は地形的に今後の進行の要の場所になることなども追記したのである。
 これに対しての戦略については、基地の規模が小さいため先発隊は少数精鋭の部隊で向かわせるように指示した。まず一個小隊の白兵専門部隊が先陣を切り、国境壁を爆破してフォース国に入る。国境から基地までは距離があるため爆破には気付かれることはないとした。そして森を抜け基地の状況を確認後、基地内部に潜入し戦闘装備が完全に機能できないよう爆弾を仕掛け起爆する。それを合図に待機している後方部隊が一気に征圧するとしたのだ。エダフォスがこの敵軍事基地に注目したのには訳があった。それはフォティアのいる部隊がこの場所からもっとも近いためだ。それを理由にフォティアが所属する部隊を向かわせるため名指しで部隊名を記入したのだ。エダフォスは、

「これで、フォティアがここへ戦闘に行けばやつは確実に酷い目に会うにちがいない。」

と、こころの中で笑った。エダフォスはいい気分だった。そして、この書類を父親が幹部室に不在のときにこっそりと机の上に置いていたのである。

 軍部はこの情報をもとに部隊を編成した。報告書の内容に従い、フォティアのいる白兵部隊が国境に向かわされたのだ。そこは森の中であった。フォティア達は目的の森の中の国境線にはられた高い壁に爆弾を仕掛け爆破した。辺りに大きな爆発音がし、それと同時に煙が舞い上がった。そして予定通り白兵部隊は数台の装甲車に乗って破壊された壁を踏みつけフォース国に乗り込んでいった。再びそこは森のようだった。

「情報では国境から奥地にしばらくの間進んでいけば森を抜け、その先に目的の基地がある。近づいたら状況確認後、予定通り一部の者を置いて基地に潜入する。」

と隊長から指示が出された。装甲車は木々をなぎ倒しながら前進していったが、すぐに大きくひらけた場所に出てしまった。情報では森が続くとあったが、状況が違っていた。兵士の誰かが、

「ずいぶん広い場所に出たぞ。予定より早すぎないか!?」

と言うと別の兵士も、

「ここはすでにフォース軍基地じゃないか?!だとすると相当大きいぞ。どう見ても中枢基地級の広さはある。情報では小規模基地が拡張工事で機能していないと聞いているが、何か変だぞ!?」

と、小声で言うと、

「装甲車を止めろ。」

と隊長の命令ですべての装甲車は停止した。何人かが装甲車から外に降り周りを偵察した。フォティアも外に出て周りを見渡していた。遠くには沢山の建造物があり、その中でも一際大きな倉庫の前には多数の装甲車や大砲が並んでいた。そして、その一部の装甲車や大砲をのせた車両がこちらに向かってくるのが見えた。

「作戦は中止だ!全員撤収しろ!この基地は完全に機能している!」

隊長は叫んだ。ここに侵入する際に国境の壁を破壊し大きな音と煙で敵軍に気付かれていたのである。情報通りなら基地はもっと奥にあるため気付かれないはずだったが、エダフォスの思惑通りになってしまった。フォース国軍からの大砲の音がし、こちらに攻撃が始まった。

「どういうことだ!情報と違うぞ!」

誰かが叫んだ。近くに大砲の弾が着弾し一台の装甲車がひっくり返った。他の装甲車は急いで車両を反転しもと来た経路をたどって戻っていった。何人かが装甲車に乗り込めなかったが、そのまま装甲車は最速で破壊した壁の方に走り去った。フォティアも装甲車に乗りそこね、走って潜入した場所へ全速力で向かった。銃声が鳴り響き、後方で仲間が撃たれて倒れるのを目にした。フォティアは撃たれた仲間に駆け寄り助けようと身をかがめた瞬間である。フォティアの胸に銃弾が命中した。フォティアはその場に倒れ込み、焼けるような激しい痛みに耐えながら必死に逃げようともがいた。フォティアは、

「くそ、こんなところで死ぬわけには...母さん...ネロウ...」

と言って、草むらの中で意識を失っていった。