フォティアは家族のもとで一夜を過ごした後、翌日には軍に戻っていった。家族との束の間の再会であった。できればアエラスじいちゃんにも会いたかったが、休暇期間が短いため翌朝には村を出発したのだ。
その後、軍に戻ったフォティアは休む間もなく次の戦闘のため招集させられた。作戦のブリーフィングを行い、計画通りフォティアたち白兵部隊は現地に向かわされていた。その作戦とは、フォース軍のある小規模軍事基地を奪取するというものである。その目的の基地はある期間一時的に兵士の配備や戦闘装備が手薄になるという情報を入手したため計画されたものだった。作戦はまずフォティアたち少数精鋭の白兵部隊が攻撃目的のフォース国基地に近づき、状況を確認することから始める。そして、情報通りであることが分かれば、潜入し爆弾を仕掛け完全に戦闘装備を叩いたのち、後方で待機している本体部隊が一気に攻め入るという計画であった。しかし、この基地の情報は全くのデマであった。敵基地が手薄になることや基地の規模はすべて捏造された情報なのである。そして、この偽情報と戦略を画策したのがエダフォスなのだ。
今から数日前、エダフォスは軍の中枢基地内の上官棟にある父親の幹部室に向かっていた。本来であれば容易く軍幹部の部屋などに出入りは出来ないが、父親が幹部軍人ということで許されていたのである。まだ若いエダフォス程度の軍人が軍上層部のある基地になど配属されることはありえないのだが、エダフォスは軍部内でも戦闘には直接携わらない比較的安全な部署に配属されていたのだ。エダフォスはフォティア達と同時期に訓練生を卒業した後、うまく人事担当者に取り次ぎ危険な部隊に配属されないように配慮してもらっていたのである。そのときもエダフォスは父親の名をだし従わせていたのだ。
エダフォスが父親の幹部室前に来るとドアをノックした。しかし返事はなかった。ドアに手をかけると鍵はかかっていなかったため静かに部屋に入った。エダフォスは、
「何だ、親父いないのか。」
と言って、入室後部屋内部を見回した。部屋の中央には長めのロウ・テーブルがありその周りに数脚のソファーが置かれていた。そして、その奥に大きな机があった。父親の机である。エダフォスはそこに近づき椅子を眺めていた。人が座ると肩ほどまである背もたれと肘掛けがある椅子は表面が革で出来たとても立派な椅子であった。エダフォスは、その椅子に父親がいないのをいいことに試しに座ってみた。ゆっくりと椅子に腰かけるとエダフォスは思わず、
「おーー」
と、小さく声に出した。座り心地といい、表面の触り心地や絶妙な柔らかさといい最高なのだ。
「いい座り心地だ。いつまでも座っていたい椅子だ。こいつはぜったい俺のものにしてやる。この部屋もな。」
と呟いていた。椅子に座った状態で視線を正面に移すと、
「いい気分だ!」
と言い、自分が幹部になったような気分に浸っていた。そんな感覚も覚めてくると、目の前の机の上に置かれた封筒に目が行った。
「何だ、この封筒は? 参謀本部からの報告書か?」
とエダフォスは机に置かれたまだ未開封の封筒を開け中を確かめた。それは、軍の諜報機関がフォース国軍の捕虜から聞き出した情報をもとに参謀本部でまとめた今後の戦略についての報告書であった。エダフォスはその内容に目を通した。そこには今後の戦況を左右するであろう征圧すべきいくつかのフォース国軍事基地の場所などが記載されており、さらにそこにはどのような部隊をどの様に配備し攻撃していくかなど事細かく計画が記載されていた。エダフォスはそれに目を通すと報告書を机の上に軽く放り投げ、椅子の背もたれに深く体を預けた。エダフォスは、
「ただのつまらん報告書か。」
と、呟きながら頭を背もたれの角に乗せ天井を眺めながらゆっくりと体を左右に回してゆすっていた。そして、しばらく何も考えず天井の一点を見つめていたが、突然エダフォスは、
「まてよ!」
と言って、背もたれから体を起こし机に放り投げた報告書にもう一度目を通し始めた。その時悪魔の囁きがエダフォスに名案を閃かせたのである。エダフォスは、
「そうだ!これでフォティアのやつに...。」
と呟き、含み笑いをしていた。エダフォスはフォティアに仕返しをするため良からぬことを思いついたのである。