Vol.36:対策会議2

『――あの規模の攻撃が可能な兵器を擁した軍団を、北方と南方、二面で相手取れと』
『……少なくとも、人形部隊ドールズが仕掛けたような攪乱かくらんのためには、高速戦闘機と艦隊を最大限、運用せねばならん。制限時間もある。電撃戦を仕掛けねば厳しかろう』
『……目には目を、だ。あの規模の光線兵器を使われる前に、心臓部を撃ち抜いてしまうのが一番早い』
『――エメレオ・ヴァーチン博士』
「はい」
『確か、あなたご自慢のMOTHERシステムと、その収容施設は……非常時には巨大なエネルギー供給装置として運用できる。違いましたかな』

「その通りです。各地に張り巡らせたエネルギーポイントへの遠隔供給拠点としても運用できます」
『五十テラワートス。虎の子の陽電巨砲グラン・ファーザーを二台、起動・運用するのに必要なエネルギー量だ。供給できるか?』
『MOTHERのエネルギー供給用のテラエンジンは確か、三十テラワートスまで出力可能なはずだが、足りんな』
 エメレオはしばらく黙した。ややあって、口を開いた。
「……アンドロイドたちを供給源に流用はできます。彼らは一体あたり、一.五テラワートスの出力が可能です。MOTHERの供給量に追加すれば、五十テラワートス分を確保できるでしょう」
『では、それで行こう。ヴァーチン博士と人形部隊ドールズは速やかにエネルギー供給準備に移ってくれ』
 エメレオは一礼し、会議室を辞した。εイプシロンμミュウもあとに続いた。
【みんな、聞こえていたね? 全員、施設へ引き返すよ】
【ぐえー】
 遠くから返事を返したのはωオメガである。
【作戦中、ずっとカプセルに缶詰かぁ……スリープモードじゃなくて半励起状態だから、アレ、暇でしょうがないんだよねぇ……】
【文句を言うな、ω。俺たちがちょっと塩漬けになるだけで、あの嫌味なおっさんの作った兵器がただのスクラップになるんだから、楽なもんだ】
 αアルファがωをたしなめた。
【……ただ、嫌な予感はするけどね】
【ε? どうした?】
【ごめん、何でもない……いや、やっぱり言っておこう。μ】
【ん?】
 εに呼ばれ、μは振り返る。
【カプセルに入るってことは、僕らは身動きがとれず、かなり無防備な状態になる。……教官ゼムの口癖、覚えている?】
【常に最善と最悪を想定せよ、でしょ】
 言いながら、μも言い知れぬ不安を覚えていた。
 将校から送られてくる視線の中には、嫌悪に近いものがいくつも混じっていた。人形反対派と思しき人間だけでない。会議中、アンドロイドたちの戦闘の映像を見てから、不安そうに向けられる眼差しもちらちらとあった。
【……MOTHERと君たち全員だと、目標エネルギー供給には少し余るからね】
 エメレオから通信が入り、μたちははっとエメレオを見つめた。
【万が一のことを考えて、何人かには待機状態でいられるよう、かけあっておくよ】
【博士】
【それくらいは僕にもさせておくれ。……君たちが、自分を守ろうとする意思を、僕は尊重する】
 彼は淡く微笑んだ。
 アンドロイドたち全員と合流し、研究施設に戻ってくると、もう夜になっていた。μは不思議な気持ちになった。昨日から怒濤の出来事の連続だった。丸一日の間にこれほどたくさんの出来事が起きたとは到底信じられないほどに。アンドロイドとして製造されてからこの方、これほど長く忙しい一日はついぞなかったかもしれない。
 作戦は三日後だと伝えられた。それまで、人形部隊ドールズはエネルギー供給源として温存されることになる。
 めいめいに過ごすようにと言い渡されたアンドロイドたちは、降ってわいた自由時間に困惑した。
 とはいっても、時刻は夜。お行儀良く過ごすなら、カプセルの中に格納される時間である。特に睡眠が必要な体でもないので、うるさくしなければ話をしていても問題はないのだろうが。