「――傾聴」
ざっ、と姿勢を改めて正し、アンドロイドたちは彼女へ視線を向けた。決して無機質ではない、興味と好奇心を秘めた視線に、一瞬彼女は目を見開いたが、すぐに顔を引き締めた。
「私はアリス・ルプシー少将。サエレ基地、そしてシンカナウス陸軍第三歩兵師団を預かる。ちなみに人形趣味は持ち合わせていない」
こちらを睨み据える淡い青の瞳に浮かぶ僅かな敵意に、アンドロイドたちの間に一種の予感が走った。
【おや、これは……】
誰かが呟いた。
【もしかすると……もしかする?】
「私は戦闘型アンドロイドの戦術的投入には懐疑を抱いている。貴様らの暴走こそが、ひいては国民の安全を脅かすと危惧しているからだ」
【あー…………彼女はね……】
気まずそうな通信はエメレオのものだった。
「少しでも妙な行動を見せてみろ。即刻ガラクタにされると思え」
【…………『人形反対派』かぁ】
複雑そうな声をωが発した。μは嫌な予感が当たってしまったと心のうちで呟いた。
【怖い上官に当たってしまった】
【人間にはきっと優しいんだよ、いい人の匂いがするもん】
【懐いたらほだされてくれないかな】
【あとでルプシー司令の攻略法を作ろう】
【任せろ。プロファイリング方法は調べてきてある】
【……みんな、たくましく育ってるね、μ】
【すみません】
エメレオの感想に、思わずμは謝った。別に自分が悪いわけでもないのだが、緊張感を維持するには、いかんせん全員の癖が強すぎた。
もしかするとアンドロイドたちの素の性情を知って、最初に卒倒するのは彼女なのではないだろうか、と。
くらりと来て背後に倒れ込む将官と、彼女を慌てて支える誰かの姿をμは幻視した。
「おまえたちからの挨拶はいい。同じような自己紹介を二十四回も聞いている暇が惜しいからな。――おい、そこの負傷しているアンドロイド」
「はい。TYPE:μと申します」
呼び止められたμは、うう、と内心呻いていた。補修成分をたくさん染ませたパッドを、支援物資を持ってきてくれた仲間があててくれたのだが、そのせいで他の機体と差異がついてしまったのが辛い。
「おまえが最も現場で戦ったとみえる。敵の様子を知らせろ」
「――私が接触したのは、高度機械人間の男性です。本人は傭兵を名乗っており、エントの高官に雇われたと話していました」
「サイボーグか。その傷はその男にやられたと?」
「はい。我々の設計強度から、相手は少なくとも三十トン級の出力が可能とみられます。また、他に我々が接触した敵勢力については、隣のTYPE:εがご説明申し上げます」
ルプシー司令が目線をμの隣にいたεに投げた。
「ご紹介に預かりました、TYPE:εです。私が接触したのは無人の武装ヘリ二十機の集団です。ヘリ自体は我が国のものですが、装着していた武器はエント製のものであると確認されています」
「一連のヴァーチン博士襲撃事件の黒幕は、彼の国で間違いないということだな」
「MOTHERが断定いたしました」
「――この数日、一人の科学者風情を狙うにしては派手すぎる動きだ。陽動か、あるいは――目標のため、なりふり構っていられなかったか?」少将は目を眇めた。
その時、警報音が基地全体に鳴り響いた。
全員の顔色が変わる。
「何事だ!?」
少将が手をかざすと、手首の投影装置から中空に画面が表示された。表示内容を見たμたちは息を呑んだ。
「――南のオーギル海上のテレポート・ゲートエリアを、エントの浮遊艦隊が進行中……!?」
「馬鹿な……! この時間帯の通行許可が出されたなど、全く聞いていないぞ! 防空装置はどうした!? 空軍は何をしている!」
「調べてみよう。MOTHER、防空システムの一時権限を取得してくれ」
『かしこまりました』
【まずいぞ】εが呟いた。【博士の護衛はエントの間諜だった。エージェントが一人だけなわけがない。もしかすると――】
【潜り込んだ誰かにシステムを解析されて、穴を突かれた?】
【おいおいおい。防空システムがゼロデイ攻撃をソフトハードまとめて受けたとか、笑えない冗談だぞ、システム部は何やってんだ】
【あるいはウイルスやワームを仕込まれたとかじゃない? そっちの方が機能停止に追い込むには手っ取り早い】
αとω、γが顔をしかめる。
【どっちにしても、相手がやり手ってことだけは分かるなぁ。やだなぁ、後手後手に回ってる感じがする】
複雑そうな声をωが発した。μは嫌な予感が当たってしまったと心のうちで呟いた。
【怖い上官に当たってしまった】
【人間にはきっと優しいんだよ、いい人の匂いがするもん】
【懐いたらほだされてくれないかな】
【あとでルプシー司令の攻略法を作ろう】
【任せろ。プロファイリング方法は調べてきてある】
【……みんな、たくましく育ってるね、μ】
【すみません】
エメレオの感想に、思わずμは謝った。別に自分が悪いわけでもないのだが、緊張感を維持するには、いかんせん全員の癖が強すぎた。
もしかするとアンドロイドたちの素の性情を知って、最初に卒倒するのは彼女なのではないだろうか、と。
くらりと来て背後に倒れ込む将官と、彼女を慌てて支える誰かの姿をμは幻視した。
「おまえたちからの挨拶はいい。同じような自己紹介を二十四回も聞いている暇が惜しいからな。――おい、そこの負傷しているアンドロイド」
「はい。TYPE:μと申します」
呼び止められたμは、うう、と内心呻いていた。補修成分をたくさん染ませたパッドを、支援物資を持ってきてくれた仲間があててくれたのだが、そのせいで他の機体と差異がついてしまったのが辛い。
「おまえが最も現場で戦ったとみえる。敵の様子を知らせろ」
「――私が接触したのは、高度機械人間の男性です。本人は傭兵を名乗っており、エントの高官に雇われたと話していました」
「サイボーグか。その傷はその男にやられたと?」
「はい。我々の設計強度から、相手は少なくとも三十トン級の出力が可能とみられます。また、他に我々が接触した敵勢力については、隣のTYPE:εがご説明申し上げます」
ルプシー司令が目線をμの隣にいたεに投げた。
「ご紹介に預かりました、TYPE:εです。私が接触したのは無人の武装ヘリ二十機の集団です。ヘリ自体は我が国のものですが、装着していた武器はエント製のものであると確認されています」
「一連のヴァーチン博士襲撃事件の黒幕は、彼の国で間違いないということだな」
「MOTHERが断定いたしました」
「――この数日、一人の科学者風情を狙うにしては派手すぎる動きだ。陽動か、あるいは――目標のため、なりふり構っていられなかったか?」少将は目を眇めた。
その時、警報音が基地全体に鳴り響いた。
全員の顔色が変わる。
「何事だ!?」
少将が手をかざすと、手首の投影装置から中空に画面が表示された。表示内容を見たμたちは息を呑んだ。
「――南のオーギル海上のテレポート・ゲートエリアを、エントの浮遊艦隊が進行中……!?」
「馬鹿な……! この時間帯の通行許可が出されたなど、全く聞いていないぞ! 防空装置はどうした!? 空軍は何をしている!」
「調べてみよう。MOTHER、防空システムの一時権限を取得してくれ」
『かしこまりました』
【まずいぞ】εが呟いた。【博士の護衛はエントの間諜だった。エージェントが一人だけなわけがない。もしかすると――】
【潜り込んだ誰かにシステムを解析されて、穴を突かれた?】
【おいおいおい。防空システムがゼロデイ攻撃をソフトハードまとめて受けたとか、笑えない冗談だぞ、システム部は何やってんだ】
【あるいはウイルスやワームを仕込まれたとかじゃない? そっちの方が機能停止に追い込むには手っ取り早い】
αとω、γが顔をしかめる。
【どっちにしても、相手がやり手ってことだけは分かるなぁ。やだなぁ、後手後手に回ってる感じがする】