15.実務

 時は過ぎ、実習生はすべての講習・訓練を終了し卒業となった。ここから卒業した訓練生たちは実際の仕事としてメテオラ操縦業務を行っていくのだが、いきなり大規模タイプのメテオラを扱うことは出来ない。はじめは中規模貨物用メテオラで低速短距離輸送に限られた業務となり、その中でも比較的波動の安定した野菜などの食材輸送を担当する。この星では動物や魚などは一切食さないためそのようなものを運ぶことはない。この星の人間は野菜や穀物などを主に食す。肉食は魂が穢れるため人々は決して動物を食べることはないのだ。ウラノスも何度もこうした波動の安定した貨物の輸送を行い中規模メテオラ操縦の実務経験を上げていった。そして、今ではあらゆるものを超高速移動による長距離輸送をこなすまでに至っていた。卒業した同期の実習生も皆同じ様に違う場所で実務経験を積み操縦技術の腕を上げていた。アネモイも同様に。ウラノスは時々アネモイと会って仕事での出来事やメテオラ操縦での精神状態やエピソードなどを話していた。そして、ウラノスは一度だけメテオラ操縦で問題を起こしてしまったことがありそのことをアネモイにも話した。

 それは、ウラノスが中規模メテオラの操縦をはじめてからしばらくし操縦にも慣れ、徐々にいろんな物資を輸送しはじめた頃のことである。ウラノスはその当日の朝、少し寝坊をしてしまった。前の晩よく眠ることができなかったのが原因だった。そのため早朝の浄化と上昇を行わずに仕事場に向かったのである。ウラノスは今日輸送する貨物のことや輸送先や時間の調整のためのミーティングを行っていた。今日輸送するものは巨大ナオスの建材で寿命のきたナオスを建て替えるための資材であった。貨物輸送の中でも建材は重いものの部類になるが、メテオラによる輸送に重さは問題にはならない。問題になるのは輸送するものの波動である。どんなものにも波動は宿る。もちろん無機質なものも同様である。資材ならその資材を製造した過程、あるいは地上を輸送していた過程でも波動に乱れを与えてしまうことがある。それはほとんど人為的なものであるが、波動の低い精神性の劣った星の人間にしてみればそれは全く分からないほどとても僅かな乱れであるが、この星の様に精神性の高い星では大きな乱れとして扱われる。地上で輸送する程度のことであれば影響はないが長距離を上空で超高速移動するメテオラの場合は波動の乱れは空間移動中にときとして問題を起こす。従って、中規模以上の超高速移動する貨物メテオラでは貨物を一旦倉庫に退避させ貨物に乱れた波動があろうがなかろうが必ず検査し波動調整を行う。ウラノスは今朝できなかった浄化と上昇を操縦士控室で一人静かに行っていた。そして準備が整い輸送する貨物の状態をスタッフに確認していた。

「貨物の波動調整の状態は如何ですか?」

とウラノスは波動調整スタッフに確認していた。スタッフは、

「もうすぐ調整は終了します。扱う貨物は巨大なナオスの建材だけあってとても良い波動なんです。この建材を作られた職人はかなり高い波動の持ち主ですよ。このまま現場に持ち込んでも、即使用できるレベルです。」

と応えた。しかし、このときいつになくスタッフはウラノスに質問したのである。

「ところでウラノス操縦士、今日は調子のほう、如何ですか?」

とウラノスの体調を聞いてきたのである。ウラノスは、

「少し寝不足ですが、いつもどおりです。」

と応えた。こんなことを聴かれたのは初めてだったので少し不思議に思っていたが、ウラノスは特に気にしなかった。ウラノスはそのことよりも一瞬でその物質の状態を察知する波動調整スタッフはやはり流石だなと関心していたのだった。しかし、このときウラノスは気づくべきだったのだ。これだけの能力をもつスタッフと認めているからこそ、この質問に対してもっと注意深く受け取るべきだったということを。実はこの波動調整スタッフはウラノスの放つ波動に何となく違和感を感じ取っていたのだ。そしてその違和感が後の操縦に影響を与えてしまう結果となるのである。

 波動調整部署のスタッフは貨物に軽く触れただけでその波動の質や状態を見抜く能力のエキスパートである。もちろん貨物を運送するメテオラ操縦者もその能力はあるのだが、彼らはその能力が突出して優れているのである。しかし、大規模な乗客用メテオラ操縦士ともなるとこの能力は必須とされている。波動調整を行う部署には二班り、一つは貨物の出す波動の状態を確認する班、もう一方は貨物に乱れた波動がある場合それを調整する班である。今確認をした担当のスタッフは前者の波動の質を確認するスタッフである。彼らのような技能は仕事の幅がとても広い。今行われているような貨物の波動調整以外に食べ物や土地、建物、そしてメテオラのような乗り物と、あらゆるものの波動調整を行う仕事がある。ウラノスは彼らの技能を見るたびに子供の頃の経験をよく思い出していた。