7.感動

 ウラノスがコントロール・ルームを出た先の座席につくのを確認した父は操縦席に座り、メテオラ浮上までの間、目を閉じ集中していた。そのうち父の前にある半円状の操作パネルの表示の一部がみるみるうちに明るく光り出した。これは操縦者、つまりウラノスの父が放つ光の波動状態を表している。

「お父さん、すごい集中している!
ここまで光の波動が伝わってくる!」

と、ウラノスは小声で呟いた。もう一つ別の表示がまだ暗い状態だが徐々に光り始めた。これは客室内部の波動のレベルを表すものである。この明るさが操縦士の波動レベルにまで明るく光らないとメテオラは浮上させてはならない。ウラノスは予め父から操作パネルのことを少し教えてもらっていたため今の状況がよく理解できた。客室はコントロール・ルームを囲むように配置されており、今日の乗客数は約150人ほどであった。しばらくすると客室の波動レベルが上がったため二つの光りは同じレベルまで輝いた。

「確か、さっき紹介されたもう一名の新人の操縦者の方が乗客の波動レベルを安定させているってお父さん言ってたっけ。あの光が明るくなっているということはもう一人の操縦者が上手く安定化させているんだ。」

ウラノスは、心の中で納得しながら思った。中大規模メテオラの中でも乗客用メテオラに関しての操縦は二名で行い、一名はメテオラの操縦が主に、もう一名は乗客の波動調整を主に担当するのである。担当が別れているとは言ってもメテオラ操縦士はどちらも出来なければならない。割合的にどちらにエネルギーをメインに使用するかの差だけなのである。従って、ウラノスの父も操縦をメインにこなすが、同時に操縦中も乗客の波動調整に関わっている。乗客をはじめにメテオラに登場させているのはもう一名の操縦者が乗客の波動を浮上前に予め安定化するためなのである。しばらくすると、コントロール・ルームから見える空が徐々に広がり周囲の景色も広がった。上部ドッキングベイが外されゆっくり収納されているのである。その景色はウラノスのいる場所でも同様で、

「わー、天井が空でいっぱいだ!
遠くに巨大ナオスが森の中から突き出ているのが見える!」

と思わずウラノスは声に出した。すると準備完了を表すように父の全面の操作パネル周辺が光りだした。ウラノスは少し興奮気味で手に汗を握った。父は目を開け軽く深呼吸すると座席両サイドにある半球状の装置にそれぞれ掌を置いた。浮上のアナウンスが入るとゆっくりとメテオラは上昇した。そして、ある一定の高さまで上がった後、一気に上空に浮上した。ウラノスの座席も床が半透明でドッキングベイが見えていたが、それがあっという間に小さくなり見えなくなった。ウラノスはまたも、

「うわー!」

と驚きの声を出し、

「浮いた感覚はあるけど身体に全く負担がないんだ!」
「お父さん、こんな大きなもの浮かせるなんて、やっぱりすごいや!」

と思った。その後、メテオラは上空で少し待機した。メテオラ操縦者はこの間に目的地点をイメージする。この時の操縦者の意識は星全体にまで広がるのである。そして、目的場所が定まるとゆっくり動き出す。ウラノスは、

「お父さん、移動準備に入ったんだ。」

と思い、コントロール・ルームの操縦席の父に目をやった。父の身体から発する波動がさらにウラノスの身体に伝わりそれが強くなっていくのが感じられた。そして、

「お父さん、僅かに輝いてる!」

とウラノスが思った瞬間、外の景色が一気に変わった。

「わー! 空の雲が凄い勢いで流れてる! 速すぎてよくわからないや。」

ウラノスは、必死で雲を追った。目で追いきれず首を振ってさらに追ってみたが疲れてきて諦めた。ウラノスは空を流れる雲を追うのはやめ、半透明の床から地上を見ていた。

「陸地がすごいスピードでどんどん移動していく!」

ウラノスは初めてのことばかりで興奮がとまらなかったが、少し落ちつくと父の操縦姿に目をやり、父の発する波動を感じていた。

「お父さん、この波動をずっと維持しているんだ。凄い集中力!」

ウラノスにとって、今まで感じたことのない波動に感動した。

「お父さんの発する波動エネルギーって、とっても心地いいな。」

とウラノスは思った。ウラノスの感じている波動とは正確にはメテオラをコントロールする二名の両操縦者から発する波動の合成されたものである。この心地よさは乗客も同じでほとんどの乗客は眠ってしまう。実際は移動前の波動調整中に乗客の大半は気持ちがよくて眠ってしまうのである。ウラノスが心地よい波動に浸っているのも束の間、空に浮かぶ雲の流れが徐々に緩やかになってきた。