二人が祈りの間から地上に降りるとウラノスは待っていたアネモイに、
「このお役目、お受けするよ!」
と自分の決意を伝えた。アネモイもこころの中できっとウラノスなら引き受けると信じていた。その後、ウラノスは管理施設内で職員からこの祈り人のお役目についての簡単な説明と必要な手続きを行っていった。職員からは、
「祈りの間での具体的な祈りの方法などは今回引退される祈り人にしばらくついていただき直接伝授していただきます。
ナオス・ヘプタでの祈りの時期は基本的に決まった周期になりますが、場合によっては緊急で招集されることもございます。その時はこちらからご連絡いたします。また、ナオス・ヘプタはこの星に七か所ございますが、毎回異なるナオスでの祈りになりますのでその都度どこのナオス・ヘプタに行って頂くかもこちらからご連絡いたします。それから...」
と、説明は続き最後に職員から、
「概略はこんな所になります。先ほど案内して頂きました祈り人が案内がてらウラノス様の放つ波動を確認して頂きました。その結果、十分適格者であるとのお墨付きを頂きましたので自信をもって祈り人としてのお役目を全うして頂けると思います。
ご納得頂けましたら正式な契約に移らさせて頂きます。」
と説明され契約を交わした。ウラノスはここまでとんとん拍子に事が運んでいくことを不思議に感じていた。
その後、現在の祈り人を知っておく必要から先ほど案内していただいた祈り人も含め七名の経歴や写真などを見せてもらった。そしてそのとき過去に祈り人をしていた人たちの履歴もみることが出来たため拝見させてもらった。その中で何となく見覚えのある顔があった。しばらくその写真を見ていてウラノスは思い出したのだ。
「この方、見覚えがあります。
私が大規模乗客用メテオラの操縦を開始してからしばらくして出会った乗客です。
この方からメテオラ乗りのもう一つの役目を気付かせて頂きました。」
ウラノスがまだ若かったころの出会いでかなり記憶が薄れていたのと、出会ったときの老人の顔立ちより少し若い頃の写真であったこともあり一瞬では気付けなかったが間違いなかった。職員は、
「そうでしたか。ウラノス様が体験したようなことはよくあることなんです。
祈り人に選ばれる人と言うのは、どこかで偶然に祈り人本人と直接的な接触が一瞬だけあるそうなんです。そのとき何かとても印象に残る出会いがあり、その後二度と出会うことが無いと聞きます。
何でしょうね、祈り人が無意識に認めた者に出会うとその段階で祈り人の意思を受け継ぐとでも言いますか、そんな傾向があるようなんです。不思議ですね。」
と話してくれた。ウラノスはその方の写真に添付された履歴を見て父が言った通りメテオラ操縦士であったことがわかった。そして、みまかった時期を確認したとき、気が付いたのだ。あの時老人はこの世を去る数日前であったことを。ウラノスは、
「そうだったんだ。」
と一言呟いた。
その後、祈り人を引き受けたウラノスはしばらく引退予定の祈り人とともに七つあるナオス・ヘプタをすべて廻り祈りのやり方を実地で伝授された。職員の説明のように七つのナオス・ヘプタ同時の祈りでは毎回異なるナオス・ヘプタになるため、その度に遠い場所にメテオラで移動し、そこで祈りをマスターしていったのだ。
伝授が終了した後、ウラノスが初めての祈り人のお役目を果たす日が来た。ウラノスはメテオラで移動中、
「あの時出会ったお爺さんも、ナオス・ヘプタに向かう途中だったのかもしれないな。たぶんあれが最後の移動だったのだろう。」
と、そんなことを思っていた。そして、あの時の老人に深く感謝していた。
ナオス・ヘプタに到着し祈りの間に入ったウラノスは祈り開始前の浄化と上昇をはじめた。七名が同時に祈りをするときは乗客用メテオラのパートナー同士のシンクロと似ていた。流石に祈り人は選ばれし者たちである。七名でも一瞬で同時波動同調したことをウラノスは体感したのだ。だがしかし、この時は初心者のウラノスの波動に他の六名が合わせてくれたお陰なのである。しばらくはこうしてウラノスに合わせるが、徐々に六名がウラノスの波動を引き上げ他の祈り人のレベル近くまで意識を上昇させた。ここまで来るとウラノスの身体は他の祈り人、そして白き星アスプロに溶け込み一体化した感覚に陥る。このとき声が聞こえてきた。
「ウラノスさん、ナオス・ヘプタαにいる祈り人です。宜しくお願いします。」
また、別の方向から、
「こんにちは、リラックスしていきましょう。ナオス・ヘプタγの...」
と言うように六名から挨拶が意識の中に次々と入ってきた。ウラノスも、
「初めまして、今回ナオス・ヘプタδを担当致しますウラノスです。今後とも宜しくお願いいたします。」
と意識で応えた。この意識の一体化ですべての祈り人の人となりが一瞬で分かった。
そして、祈りがはじまった。祈り人は宇宙からの光を吸収していくと、それはそのまま白き星へと流れ込み星はさらに輝きを増した。そのとき一瞬、星から言葉のような意識が伝わってきた。まるで感謝されたかのような、そんな感じだった。
そして、祈りによる星の浄化が終わり祈りの間の中心で立っていたウラノスは静かに目を開けると、そこから見る外の景色が変わっていた。ウラノスは、
「すべてが輝いている!
そうか、そうだったんだ。」
と初めて分かった。
それはウラノスが子供のころから思っていたことだった。すべてのものが周期的に天気でも変わるかのように光輝く時があることに不思議に感じていたのだ。空も大地も木々も空気も水もすべてである。それが祈り人による祈りの浄化によるものだということにこのとき初めて知ったのだ。
祈り人の存在は限られたものにしか伝えられていない。従って、ウラノスのような感覚は誰しもが感じているがその本当の理由を知るものは僅かなのである。
これが、ウラノスが経験する今生最後の務めであり、そしてそれはこの星で最も神聖で崇高なお役目だった。