67.初搭乗

 ウラノスは上部ドッキングベイ内通路からメテオラに搭乗するところだった。いよいよ中規模クラスのメテオラに一般乗客を乗せての初操縦のときである。
 中規模とはいえ構造も操縦法も大きさ以外は大規模クラスと変わりはない。ただ、乗客数が半減するためその分乗客の波動調整の負担が少なくて済む点に違いがある。
 貨物タイプのメテオラのとき同様、実務経験と操縦技能が上がるまでは、二人はこのクラスのメテオラまでが操縦が許される限界なのだ。

 アネモイはすでに下部ドッキングベイから搭乗済みであった。つまりアネモイは乗客の波動調整を主体とした操縦担当で、すでに乗客に光の波動を送り調整を開始していたのである。
 ウラノスは円錐状の操縦室に入り操縦席につくと上部ドッキングベイが外されていき徐々に操縦室一面が外の風景へと変わったいった。そして深呼吸し浄化と上昇を開始した。このとき同時にアネモイとの波動同調がはじまるとともにメテオラともこの二人の波動は同調し、三つの意識が一つになるのだ。
 操縦士同士はお互い特に言葉のやり取りは必要としない。お互いの思考はすべて伝わるからだ。そのためメテオラ内部の上下の二つの操縦室は操縦士の思考波をそれぞれ増幅し伝える仕組みが備わっている。
 こうした二人の各種同調は操縦士の魂のタイプや操縦士固有の波動特性、そして技量により異なるのである。操縦士二人の相性とはこのようなシンクロ率のことを言う。

 波動同調が完了すると三つの意識が航行可能であることを光インディケータを通してメテオラが知らせてくれる。ウラノスはそれを確認し、

「メテオラ同調完了。上昇ステージ移行準備完了。」

と思考するとアネモイも、

「乗客波動調整安定、上昇ステージ移行願います。」

と応答する。そして、ウラノスが、

「了解。上昇します。」

と応えると、一瞬にしてメテオラは空高く上昇した後一旦上空で停止した。そして、ウラノスは星全体に意識を拡大し目的地への航路をイメージするのだ。
このとき現在航行中、またはこれから航行するであろうメテオラの航行経路が意識上にイメージとして重ね合わされ、自分の航行経路と重ならないように航路を決定するとそれはこの星すべてのメテオラ操縦士の意識にも伝わるのである。もちろん副操縦担当のアネモイにも伝わりその様子を監視している。
メテオラ同士は決して衝突やニアミスはおこさない乗り物であるが万が一を想定してこのような手続きを行う規則になっているのである。
 そして、準備が整ったメテオラは一気に加速し超高速空間航行へと移行していった。その間にもウラノスの意識は常に星全体に行きわたらせ他のメテオラの動きも認識しつつ目的地点に向け航行した。
 ウラノスが子供の頃に父の操縦するメテオラに搭乗した時は外から父の様子を見ていただけで何が行われているか分からなかったが、自分がメテオラ訓練をはじめたとき、父があのときこんな繊細なやりとりを行っていたのかと驚いたものだった。
 
 その後、目的地点に近づくと減速航行に移行しステーション上空に来るとそこで一旦停止した。そしてドッキングベイ近くに一気に降下した後、静かに着陸していった。
 アネモイは下部ドッキングベイから降機する乗客を確認した後、ウラノスがいるスタッフルームへと向かった。乗客が搭乗前と降機後の波動状態を数値データで比較し目的地点に到着後乗客の波動に悪い影響が残っていないかを確認するためである。大概の場合、降機後には乗客の数値は同じか良くなるが、その確認を二人は行っていたのだ。アネモイは、

「乗客の波動変動値、どう?」

と言うと、ウラノスは、

「全員、数値が良い方向に僅かに上がっているよ!」

と応えた。アネモイはそれを聞いて安心した。今回はアネモイが乗客の波動調整を行ったため気になっていたのだ。この結果は二人の操縦士のシンクロ率の良し悪しにも影響する。当然、シンクロ率が高い者同士の操縦のほうが良い結果になるため、ウラノス自身もほっとした。
 翌日二人は操縦席を交代し、アネモイは操縦主体、ウラノスが乗客の波動調整主体の副操縦士として航行した。そして、同じようにして最後に乗客の波動変動値を分析した。この時も乗客の波動変動値は良い方に上昇していたが、アネモイが波動調整した時の方が僅かではあるが高めだった。ウラノスは、

「女性が副操縦士として乗客の波動調整を行ったほうが良い結果になるのだろうか?」

と何となく考えていた。
 その後何度も航行を繰り返し、乗客の年齢や性別などの分布と波動変動値を分析した結果、少なくとも子供や男性が多い場合は大概アネモイが副操縦士として波動調整していると高い結果になることが分かった。逆に女性が多いと真逆の結果になることも分かったのだ。この結果が分かった時はアネモイはウラノスに、

「あなた、女性が多いからってサービスしすぎじゃないの!」

と、冗談を言っていた。当然ウラノスはそのような気はなく定常通りの波動調整を行っていたのだが、波動調整受け手側である乗客が副操縦士と異性の方が比較的良い結果になるという傾向が分かったのだ。この結果は過去の統計調査ですでに分かっていたことで、ウラノスとアネモイの操縦もやはり同じ結果をもたらし特別な現象ではなかった。

 その後も二人はこのようにして、あらゆるデータを分析し操縦中の意識や自身の波動や乗客の状態が航行にどのように影響していくかを考察しながら技能を上げるための努力を惜しまず毎回繰り返していったのである。