66.パートナー

 ウラノス、アネモイを含めた六名の訓練生はすべての操縦訓練を終了し、全員が合格レベルに達した。そして、この六名のすべての組み合わせ、つまり15組の操縦者どうしの相性を表すグラフも公開になった。その結果、ウラノスの最も相性のいい操縦士はアネモイではなかった。ウラノスは何となくそんな気がしていたが、アネモイはすごくがっかりしていた。講習が終わりアネモイはウラノスに近づき、胸の内を話した。

「ウラノス、私すごく残念。」

と、小さく話すと、

「僕も期待はしてたけど。」

と話していた。それを近くで聴いていた教官が二人に話をした。

「今回のこの結果は二人の相性が悪いということではないのですよ。
ここには表してはいませんがむしろ二人の精神的な相性はとても良かったです。
この表はあくまで訓練でのメテオラ操縦という観点での相性ですからその点を勘違いしないようにして下さい。」

ウラノスは、教官に質問した。

「では、何がメテオラ操縦という観点でよくなかったのでしょうか?」

と言うと、

「ウラノスもアネモイもよく考えるといいです。二人で操縦したときの自分を。
もしかしたら思い当たる点があるのではないですか?
操縦には大切なことですので自分たちでよく考えてみてください。」

教官はその答えを何となく分かっていた。この二人は過去世の夫婦であり、すでにウラノスはあの映像以来アネモイに恋心を抱いていたのである。それはメテオラ操縦に影響してしまうのだ。ウラノスはアネモイとの操縦となると少し意識してしまいメテオラとの精神波動の同調、つまり操縦に必要なメテオラとの一体感に時間を要してしまったのだ。ウラノスとアネモイそしてメテオラの意識が一つになり切れてなかったのである。教官は続けた。

「お二人の場合は時間をかければメテオラ操縦の相性は良くなると思います。
それと今回の結果は実験的に皆さんにこのようなことを行ってパートナーを複数名作るのです、というデモンストレーションでもあるのです。
 過去の訓練生も同様のことを行ってきましたが、訓練中で相性が良かった者同士がその後、実務でパートナーになったものは私の知る限りでは一組もいません。
 ここでの訓練は終了したわけですがそれはまだ仮免許のようなものです。しばらくは実際の乗客用メテオラに乗り込んでもらいます。もちろん操縦者としてではでなく初心者として現場の二人の操縦者がどのように波動同調させ運行しているかを感じていただくためです。この辺のことは時間をかけて体感していただき、その後いろんなペアーとシュミレータやトレーニング用機体で練習を繰り返し、最適なパートナーを見つけていくのです。」

アネモイはそれを聴いて、目を輝かせて、

「良かった!」

と思わず声に出してしまい顔を赤くしていた。ウラノスも表には出さないが内心とてもほっとしたのと同時に結果に納得した。このとき、ウラノスは不思議と教官があの映像の中の将校に似ているなと何となく感じていた。教官は最後に、

「それと、君たちのようにまだ訓練終了仕立ての者同士が組む事はとてもまれで、通常はある程度の経験者とペアーになるものなのです。ですから、もしお二人がいきなりペアーを組むのであればそれはそれなりに苦労することは覚悟する必要があります。」

と言われた。

 二人はそれぞれ乗客用メテオラに実習生として乗り込み現役操縦者の波動コントロールを肌で感じその感覚を習得していった。そして、二人で何度もシュミレータで模擬操縦を繰り返し、時にはベテラン操縦者ともペアーになりその時の感覚を分析していったのである。その後、ある程度自信がついたところでウラノスとアネモイは小型メテオラでの操縦を行い良い結果を出すことができたのである。
 そこに至るまでには、二人はお互い深く操縦について研究しあったからなのであが、二人がそこまで一緒に操縦について話せる間柄になったのにはそれ以前の出来事があったのだ。

 それはウラノスが見たあの赤い星の映像をアネモイに話したことから始まった。映像の件はだいぶ記憶から薄れてきたが思い出せるすべての話をした。話が終わるとアネモイは涙を流していた。ウラノスはアネモイの過去生がアネモスであると確信していることを話すと、アネモイ自身も否定はしなかった。そして、ウラノスは

「アネモイ、僕はどうしても君と一緒にメテオラを操縦したいんだ。」

と言うと、アネモイは、

「私も!今の話を聴いたら尚更一緒に操縦したい!」

と返した。さらに続けてウラノスは、

「操縦技術を上げるためにもアネモイには自分にあったことや思ったこと感じたことをすべて共有したいんだ。だから僕は自分が見せられた映像のことを君にすべて話した。だから...」

と話し、少し間をおいて、

「お互いが操縦パートナーとなったときは、僕と結婚..」

と途中まで言いかけるとアネモイは、

「はい!!」

と返事をしてしまった。その一瞬時間が止まったかのように二人は見つめ合い、その後笑ってしまった。ウラノスはアネモイのそんな少しおちゃめなところも好きだった。そのときのウラノスを見つめるアネモイの目が映像の中でフォティアがアネモスにプロポーズした時のそれと全く同じだったことをウラノスは感じ、アネモイとアネモスの二人の顔が重なって見えた。

 その後二人は何度もシュミレータによる操縦で確認しお互いの欠点となるようなところを徹底的に分析し実機体での安定した操縦が出来るようになっていったのである。そして目出度く操縦士として正式にパートナーとしての許可が下り乗客用メテオラ操縦士に従事することになった。そして同時に二人は人生のパートナーにもなったのである。