ウラノスは父に、メテオラ操縦で問題を起こししばらく地上勤務になってしまったことを打ち明けた時、父は続けて、
「なぜ問題を起こしてしまったのか自分で気がついているのかい?
操縦で問題を起こすことは確かにいけないが、その根本原因を十分掘り下げて考え自分の何がいけなかったのかを導き出さないといけないな。
よく自分の奥底を見つめてみなさい。
そこから新たなことを発見したり知ることが出来る。
そして、そういうことの積み重ねでさらに操縦技術が磨かれ成長していき、さらに
それは今後の人生にも大切なことを教えてくれるはずだ。」
と言われた。ウラノスは、
「この機会に十分浄化と上昇して自分の内面をよく見つめてみるよ。」
と父に返した。それからはいつも父に言われたことを念頭にウラノスは浄化と上昇を行っていった。
ウラノスは問題を起こしたきっかけが、あの映像であることは分かっていた。当然と言えば当然である。あれだけのストーリーを見せられれば心の中に残るものはあるはずなのだ。しかし、その何が影響したのかが分からなかった。操縦前にはこころの不安定要素はすべて取り去ったと自己判断していたから尚更である。
ウラノスは映像の内容の詳細が徐々に記憶から薄れていくのを感じていた。それとともにこころに響いた映像のみが際立ち浮き上がってきたのだ。一見この映像が影響したのかと思うがウラノスは浄化と上昇しさらに自分の中心の深い部分へと入っていったが分からなかった。しかし、それを何度も繰り返しているうちにあることに気が付いた。
「この光の中の僅かな暗い部分は何だ。」
ウラノスはその暗い一点に焦点を当て理解しようと幾度も試みた。そして、しばらくしてその正体が分かってきたのだ。
「これは、後悔の思いか!」
と呟いた。ウラノスはさらにそこに集中すると、そこにはフォティアの物語に感情移入したウラノスがいくつかの場面で、
「なぜ、あの時!」
と言った後悔の思いが僅かに残っていたのである。その後その思いには、限りなく僅かな怒りや憎しみに近いものが内在していた。フォティアの魂、つまりウラノスの魂にはそれが刻まれていたのだ。それがこの物語を見せられたことで今生においてはじめて浮き彫りになったのだ。
「これだったのか。」
と心の中で納得した。あの映像で潜在的に僅かに残っていたこのエネルギーがあったことにフォティアは気が付かなかったのである。しかし、この僅かな闇を理解し光が当たるとそれは消えていった。ウラノスはここまで繊細にそして深くこころの中を見つめなければならないのだということがこの一件で痛いほどよくわかった。
その他にも、操縦のために映像の内容が離陸前にウラノスの思考に僅かに入ってくるのを消すことに意識がいき、つい光インディケーターを見落としてしまったという初歩的ミスを引き起こしてしまったことも分かった。もし光インディケータの状態で操縦を止めることが出来さえすれば何も問題にはならないのである。操縦士が自分の判断で操縦を止めることや光インディケータが不安定なので止めることは全く問題にはならない。そのためにバックアップの操縦士が常に控えている運航システムになっているからである。
その後、ウラノスは操縦訓練中に教官に教えられた大切なことを思い出した。それは、
「日々の生活の中で自分のこころの中奥底には潜在的に闇の部分が残ることがあります。
それは何がきっかけで残るのかは人それぞれです。
自分の中で注意深く観察することでそれが分かったり、または何処かでそれが顕在化することで気がつくこともあります。その現れ方も人それぞれです。
それに気が付き処理することもメテオラ操縦士には必要な技能なのです。
メテオラとは操縦士の精神性を目に見える形で表に現わす意思を持った乗り物なのです。
一つ間違えば危険が伴う乗り物ですが、正しく使えばそれはとても便利な乗り物となります。それは操縦士次第なのです。
操縦士は決して慢心せず忘れずに最低限就眠前、早朝、そして操縦前に十分な浄化と上昇を行ってください。
そして、自分の中の奥底まで光で満たし、さらにその光は体外にも放射し業務に望んでください。」
だった。これに近いことは子供時代にもスコラ―で先生からも説明されていた。ウラノスは全くそのとき言われていたことを忘れていたが、今回の一件は本当に良い経験になった。
意志ある乗り物、それを端的に操縦者に分かる形に現しているのが実は光インディケータなのだ。これは単純な表示器ではない。メテオラの意思がここに光の色や強度で操縦者に教えているのである。それをウラノスは軽視していたのだ。
ウラノスはその後、初心に戻り、再び精神の鍛錬のためナオスに何度も足を運んだ。そして、浄化と上昇を行いながら自分のこころの奥底深く観察するように心掛けた。そして、自分の中のほんの僅かな闇の側面にも気がつけるようになりそれに光を当て消し去ることが出来るようになっていった。同時にメテオラに対して少し無機質的な物体としてみていた自分を悔い改め、常にメテオラに感謝し意志あるものとして操縦に向かうと誓った。
それからしばらくし、ウラノスは再びメテオラ操縦の許可がおり業務を続けていった。実務経験はどんどん上がっていき中規模メテオラの中でも大型クラスのものも任されるようになるまでに操縦技術を上げていったのである。このころからウラノスは徐々に父が操縦していた大規模なメテオラそれも乗客用メテオラの操縦士を意識しはじめた。