63.過去世

 フォティアが息を引き取ると、同時にフォティアだった視点がウラノスに戻りその場全体の映像となった。フォティアとフォティアを抱きかかえるアネモスとネロウ、その周りを多くの軍人たちに取り囲まれている様子全体を上から眺めていたのである。それはそのまま徐々に上昇し上空からの眺めへと移っていくと、ウラノスの意識はいつの間にか再び宇宙に浮かんでいた。

 ウラノスの目前には赤き星、そしてその後方には銀河が見えていた。ウラノスの意識はその銀河の中心に向かって引き寄せられているようだった。まるで上空に引き上げられるかのような感覚になり目の前がまばゆいばかりの光でいっぱいになり包まれた。その途端再び宇宙に浮かんでいた。しかし、そこには大きなとても明るい銀河が現れた。ウラノスがいつも夜明けにみる銀河である。その近くに一際白く輝く星が現れたかと思うとウラノスは住居内のナオスの中で涙を流していた。

「何だったのだ今のは!?」

とウラノスは声に出した。あれだけの映像というか物語、人一人の人生を見せられた。否、体験させられたかのような感覚だった。それにもかかわらず時間の経過が殆どなかったことにウラノスは驚いた。その証拠に肉体的には全く疲労や負担が無く、映像を観る前と何ら変わりないのだ。
 その後、就眠前の浄化と上昇はこの映像に意識が囚われてしまい集中することができず、さらにその夜は頭が冴えてしまい十分な睡眠がとれなかった。そして翌朝寝坊をしてしまい、昨晩に引き続き早朝の浄化と上昇も怠ってしまったのである。

 ウラノスは昨晩のこれだけの映像を見させられたにも関わらず、そのことには意識をそらして任務につきメテオラを操縦してしまったのだ。それも十分な浄化と上昇を怠った状態で。この星の人間であれば内面的なこころの制御は誰にでも出来るため冷静なこころの状態は作れる。ましてやメテオラ乗りであればずば抜けてその能力を発揮することができるのである。しかし、メテオラにはそのような表面的な冷静さなどでは操縦は出来ない僅かな闇にも反応してしまう一種の意識ある光の乗り物なのだ。だからこそ貨物などの物資の浄化は欠かせないのだ。ウラノスはメテオラを物質的な側面、つまり機械的な無機質な乗り物とだけしか考えていなかったが、後に意思を宿した乗り物なのだと言うことに気付きはじめるのである。

 ウラノスは地上勤務になっている間、見せられていた赤き星の映像のことを思い出していた。そして、ウラノスは気付くのである。

「あの映像は、自分の過去世の姿に違いない。」

と。

 
 ウラノスよ
フォティアは赤き星で転生を繰り返し精神性を高め
「愛」と「勇気」と「正義」をもって
自分の中の「光」の道筋に向かっていった
そして審判され白き星へと導かれたのだ
それがウラノスの魂

 方やエダフォスは何度も生まれ変わったにもかかわらず
正しく学ばず自分の誤った行いを改めないがため「闇」を肥大化させ
審判により黒き星へと落ちていったのだ

 黒き星に落ちたものはそこから抜け出すことは皆無に等しい
エダフォスの魂も例外ではない
しかしエダフォスの魂にはフォティアとの記憶が刻まれている
そこに僅かな光がともっているが限りなく小さい
それが唯一の僅かな希望

 黒き星 その闇の中では過去生の誤った行いが
すべて何倍にもなってエダフォスの魂に向けられる
それは黒き星では過酷な人生となるであろう
その闇に飲まれれば永遠の地獄
しかしそれに耐え正しい道に進んだとしても地獄

 フォティアとエダフォス 二つの魂の出会いは友からであった
しかし転生を繰り返すにつれ二つの魂は対極となり
一方は「光」へもう一方は「闇」へと向かった
それも自我による自由意志

すべての魂はこうして分けられてゆく

黒き星、赤き星、白き星は次元は異なるが同じ一つの星

 
 ウラノスは映像の中で見せられていたアネモスという名の女性がアネモイの前世なのだと直感した。偶然にも名前も似通っていることもあるが、それ以前に決定的なことがあった。それは自分が感じる二人の波動が同一なのである。ウラノスは、だからなのだと気が付いた。初めて出会ったときに突然泣き崩れたのは、アネモイの魂に刻まれたアネモスの記憶が一瞬蘇ったのだと。
 ウラノスはアネモイにこの映像のことは一切話さなかった。しかし、このころからウラノスはアネモイを見る目が変わり意識し始めたのである。まるでフォティアがアネモスにアクセサリをプレゼントした時のあの映像の出来事のように。