49.手合わせ

 農家を後にしたフォティアは、翌日軍の基地へと向かった。そこはフォティアがスコタディ軍の兵士のとき潜入し奪取しようとした基地である。フォティアはこの基地内でフォース国民になるための手続きを行うのである。手続きには審査が伴い書類審査からはじまりそれはすでに将校によって作成され提出済みであった。そしてそれが通過すると次に面接が行われ合格すればフォース国民権が与えられのだ。
 フォティアは書類審査を通過するまでの間、基地内で滞在していた。フォティアがこの基地に潜入しようとしたときは遠くからわずかに外観を見ただけで内部やその全体像は分からなかったが、実際にはかなり大きな基地であることが分かった。フォティアは、

「なぜこんなに巨大な基地とも知らずに小部隊で潜入するなどとスコタディ軍は計画したのだろうか?情報の間違いにもほどがある。」

と、フォティアは不思議に感じていた。しかし、そのおかげで真実を知り本来の元の体に戻ったのだからこれで良かったのだと思っていた。フォティアは基地内部の許可されているエリアの見学をしていると、室内で兵士が訓練をしている場所に出くわした。それはフォティアが得意とする格闘技の訓練であった。フォティアはしばらくの間その様子を興味深く見ていた。するとそこへ将校が現れ、

「探しました。ここにいましたか。書類審査が通りましたので伝えに来ました。問題なく通るとは思っていましたから特に心配はしていませんでしたが。」

と伝えられるとフォティアは、

「ありがとうございました。これも将校さんのおかげです。」

とお礼を言うと将校は、

「まだ一応面接があるので気を許さないでください。面接は私を含めて五名の審査官で行います。しかし、君なら大丈夫でしょう。面接の日時は後日連絡しますので、それまで基地に留まっていただきます。」

と説明された。フォティアは、

「はい、承知しました。」

と言うと続けて、

「ところでお聞きしたいのですが今あそこで格闘訓練してますが、あの動きは昔からああいった指導をされているのでしょうか?」

と聞くと将校は、

「そうです。あの指導法はもともと私が発端で始まりました。君は確か武術をしていたと聞いてましたが。逆にお聞きしたいのですが、君のいたスコタディ軍の部隊に不思議な技をする軍人がいるそうで軍部内でも噂になっているのですがご存知でしょうか。わが軍の兵士が攻撃してもどうにも逆らえず、かと言って傷を負わすのでもなく武器だけ奪って解放する軍人に出会ったものが何人もいるのですが君はその兵士を知っていますか?」

と聞かれた。フォティアは、

「そうですか。」

と言って、少し間を置きフォティアは、

「それは自分です。」

と言うと将校は、

「そうでしたか!君が武術をしていたと聞いたときにもしかしてと思ったのですが。よかったら、ぜひここの軍人たちにその時の技を見せて頂けないでしょうか。」

と言うとフォティアは、

「いえ、自分はもう軍人ではありませんし筋力もすっかり衰えてしまったので出来るか分かりません。」

と断ると将校は、

「軽いデモンストレーション程度で構いません。今後の訓練の参考になると思うのでぜひともお願いします。」

と言われフォティアは仕方なく訓練の中に交わった。将校が軍人を一人指名し話をした後フォティアの相手をさせた。そして、手合わせが始まった。フォティアは特に構えずその場で立っていた。そこへ軍人がいきなりの攻撃を加えたが攻撃があたるぎりぎりで寸止めした。フォティアはまったく動かなかった。将校は、

「なぜ、動かないのですか?」

と聞くと、フォティアは、

「攻撃が途中で止まるのが分かったからです。本気で攻撃する意思が感じられません。」

と言うと将校は中途半端なことをしては失礼になると考え軍人に本気でいくように指示した。そして再び手合わせが始まった。しかし、今度は相手をしている軍人が動かなかった。否、動けなかった。軍人は攻撃したいのだが何処に攻撃しようと思っても思った瞬間にすでに動きを封じられるのである。フォティアは冷静に相手の意識を感じとり動かそうとする箇所が感じとれるとその箇所に少し意識を向けるのだ。将校が選んだ相手軍人は軍の中でもトップレベルの格闘技を持つ軍人でもちろん実践経験も多い。それだけにフォティアからくる意識を本能的に感じ取り手が出せないのである。フォティアはこのとき少し不思議な体験をしていた。

「軍隊で訓練していた時よりもこころが澄み切り冴えわたっている。相手の意識がよく感じ取れる。同時に周りもよく見える。」

フォティアは周囲で見ている別の軍人や将校の動きまで感じ取っていたのだ。フォティアはこの状態を維持し続けると相手も攻撃できないだろうと感じ、あえて部分的にスキを作った。案の定、相手はその場所に向かって攻撃してきた。それは、すでに相手はフォティアの制御下にあるということだ。攻撃させたいところを相手に攻撃させるのである。まるでフォティアの術中にはまっているかのように完全に主導権を奪っているのだ。相手はいきなり蹴り技をしようとアクションをとったがその時には軍人の前にフォティアはいなかった。フォティアは、

「病院で薬物の治療のため徹底して筋力をそぎ落とし身体をリセットしたからだろうか、とても軽く少し浮いているようだ。意識もとても遠くまでいきわたる。澄んでいる。」

と感じていた。久しぶりにフォティアは武術を使い、こんなに以前よりも抵抗なく素直に柔らかく動けるとは思っていなかったため少し驚いた。周りで二人の動きを見ているものはその動きや意識の駆け引きが分からず唖然としていた。しかし、唯一この一連の動きを感じ取っているものがいた。将校である。

「ありがとうございました。これ以上は結構です。」

と言って、将校は手合わせを止めさせた。