47.隣国

 順調にリハビリも進み完全に元の身体に回復したフォティアは退院後、国境近くの病院施設を離れ比較的人口の多い街へと移動させられた。そして、一時的にフォース国軍の宿舎を仮住まいとして用意されそこで生活することになった。
 フォティアは将校に言われた通り、日中フォース国の街を隅々まで見て回った。繁華街では生活雑貨や衣類を販売する店、飲食店や食材を売る店もあれば農機具や仕事に使われるとみられる工具などの店、そしてそこで働く人々を目にした。また大掛かりな建物を修理したり建てたりしている職人など、街の人たちは明るくとても活気があった。こうして街を散策している中でフォティアは一つの工房に出くわした。それは繁華街からは少し離れた民家が立ち並ぶ狭い路地を進んだ先にあり人気のない場所であった。そこで一軒の工房を見つけたのだ。ドアが開けっ広げの工房では職人が一人家具を製作していた。フォティアも木工細工が得意だったのでついその様子に目が留まり見入ってしまった。職人はフォティアに気づき、

「興味があるのかい!よかったら中に入ってみてきなよ!」

と気さくに招いてくれた。フォティアは、職人のその手際の良い作業に関心しながらじっと見ていた。フォティアは、

「たくさんの工具を使い分けるんですね!」

と、初めて見る道具に興味が湧いてきた。職人は、

「いかに使いやすい工具を用意するかで作る家具の出来栄えはずいぶん変わるんだよ。工具はみな自作のものばかりさ。どうだい、少しやってみるかい!」

と言うと、フォティアは思わず、

「はい!」

と言って職人が製作途中の椅子の組み立てをさせてもらった。フォティアが故郷の家で作った椅子と比べれば、それは複雑で曲線は多くいかにも座り心地がよさそうに見えた。フォティアはその椅子のパーツが組めるように工具の使い方を教わり少しずつ削って調整しながら組み上げていった。職人から、

「兄ちゃん、なかなか筋がいいね!」

と言われると、フォティアは嬉しくなった。職人が最後の仕上げと調整をし組み立ては完了した。その後の作業工程は椅子の表面加工を行い完成であるが、その前に職人はフォティアに、

「この椅子に座ってみてくれないか?」

と勧められた。フォティアは快く了承しゆっくり座ってみた。フォティアは、

「わー、とても心地いいです。座面と背もたれの曲線が体にとてもフィットして椅子に軽く包まれているような感じでずっと座っていたいです。」

と言うと、職には、

「そうか、ありがとう。厳密にはお客の体系にあわせて少しその辺の形は調整しているんだ。ちょうど君の体系がこの椅子のオーナーの体系と近いので座ってもらったんだけど、いい意見が聞けて安心したよ。」

と言ってくれた。その後職人から他の製作途上の家具を見せてもらうなどしいろんな話を聞くことができた。その後フォティアは工房を後にし再び街中を探索していった。数日そんな日々が続き、一通り街中の様子が理解できたため、少し郊外へと足を延ばした。街からひとたび出ればそこはのどかな田園風景が広がっていた。そして農民が忙しく野良仕事をしている様子を見ることが出来たのだが、フォティアは自国との違いに驚いた。働いている農家の人々は生き生きとしているからだ。フォティアは、

「スコタディ国とは、大違いだ。この国の農民の作業を見ていると、なぜか自分も作業がしたくなってくる。」

と独り言を呟いていた。自国の農家は収穫した農作物を自由にできず皆貧しい生活を強いられているため農民たちは皆元気がなくやつれているのだ。それに対しフォース国の農家では軍隊であろうとも一般市民と同じ対応で作物を供給するため強制的に持っていかれることはない。従って、農家も十分な収入があるのだ。このことは将校から聞かされていた。そんなことを思いながらフォティアはしばらく田園風景を見ながら歩いていてあることに気が付いた。それは、なぜか農作物までもが生き生きとしていることが見て取れたのだ。スコタディの農家でも同じ作物を作っているが違うのである。作り手が違うとこんなに違うものなのかと思ったフォティアは、もしかして作物に何か特別な肥料でも与えているのではないかと思い土を観察してみたがスコタディの土と特段違いを感じなかった。不思議なのは畑以外に生息する雑草すら生き生きしていることである。フォティアは、

「作り手の気持ちが作物や周辺の植物にも影響することがあるのだろうか?」

などと半分冗談めいたことを思っていたが、それ以上は深く追求しなかった。