フォティアはいくつもの村を経由し歩き続けると、畑や田園が多かった地域から徐々に民家の多い街をいくつも経由していった。フォティアは人口の少ない遠い村出身のため街中の沢山の人々には圧倒されていた。通りには食べ物や衣類、日用雑貨などの店が立ち並んでいたが、フォティアはそんなものには目もくれずひたすら軍訓練施設目指して歩いていった。そして、四日目の昼過ぎに軍の施設に到着した。そこは街から少し離れ人気も民家もなく、周りには小高い丘や森がある場所だった。しかし、施設内からは人の掛け声や怒鳴る声、そして時には銃声や車両の動く音がしていた。外から見る施設はとても広く周辺は高い柵で囲われており、フォティアは柵の隙間から内部を覗くと、そこには長い建物がいくつも建っているのが見えた。フォティアは初めて見る建造物に、
「大きな建物だな。でも、いったい何処から入ればいいんだ?」
と呟きながら歩いていた。何か文字らしきものが時々柵に掲げてあるが、フォティアは字があまり読めないため何が書いてあるのか分からなかった。柵沿いの道に沿って歩き続け、なんとか大きな門らしき場所に行き着いた。そこには小さな建物が一つあり、軍人が二名立っているのが見えフォティアは急いでそこに向った。そして一人の軍人に、
「入隊志願に来ました。」
と告げると、軍人から施設内に入ることを許可され志願兵受付場所を説明された。フォティアは受付場所が分かるとそこに急いで向かった。訓練施設入り口を探すのに手間取ってしまい受付終了時間が迫っていたためである。指示された施設入口に着くと何人もの志願者が列をなしていた。フォティアは並んでいる列の最後尾につき、後ろから並んでいる志願者たちを見ながら、
「沢山並んでるな。でも、自分と同じような人も結構いるな。」
と呟いていた。それは自分も含め決して褒められるような身なりではない志願者たちのことである。瘦せ細った体形に無造作に切られた髪、着るものは古着と思わしき衣類に継ぎ接ぎなど修繕したあとが見受けられる。その様子にフォティアはきっと自分と同じような環境で生活してきた人達だろうと思って見ていた。入隊手続きは比較的簡単に済んだ。手続きが済むとすぐ身体測定や健康診断が始まり、流れ作業のように次の部屋次の部屋へと移動させられた。頭は丸坊主にされ、最後に訓練用衣類と下着が与えられシャワーで身体を洗うように指示された。大きなシャワー室内は湯気でいっぱいであり、入室したとたん暖かい湿った空気がフォティアの体を包んだ。そこでは先ほどの志願者たちが皆体を洗っていた。フォティアは、
「わー、暖かいな。ここで、どうやって体を洗うのだろう?」
と言いながら空いているシャワーに移動した。実は、フォティアはシャワーというもの自体の経験が無く、周りを見ながら真似するようにシャワーの湯を浴びた。今までぬるま湯で体を洗うことはあったが、温かいお湯が小さな沢山の穴から吹き出てくるシャワーは生まれて初めてなのだ。フォティアはこんなに贅沢に湯を流して大丈夫なのか少し心配になりながらも急いで体を洗った。その後、シャワーを終えると与えられた服に着替え指示された部屋に向かった。四十人ほど集められた部屋に全員席に着くと説明があった。
「明日からお前たちはこの訓練施設で現在訓練中の者たちと合流し厳しい特訓を行い、スコタディ国の兵士になってもらう。この中の殆どは途中で脱落するだろうが、いいか、訓練さえ凌いで兵士になりさえすればある程度の報酬がもらえるが、それまで支給されるものと食事と寝るところ以外は何も与えられないから覚えておけ。」
その後も説明は続けられていった。ここまでの入隊作業はとても手慣れたもので早かった。毎回こんな作業で回していき、それでも兵士として残るのはわずかなのである。大量に志願者を採用し、訓練でふるいにかけ、その中で使えるものだけ残すのだ。説明が終わるとフォティア達全員が別の部屋に移動させられた。その部屋は入口から奥に向かって左右にベッドが五十台ほど並べられており入隊順にベッドが割り当てられた。決して立派なベッドではないが、フォティアの今までの生活からしてみれば贅沢な寝床だ。ベッドの上には生活する上で最低限必要な物品が用意されていた。フォティアは早速ベッドに寝転んでみた。四日間歩いた疲れと温かいシャワーの後で体がスーッとし心地よい気だるさを感じていた。すべてが初めての体験だったフォティアはため息をつくように、
「あー、気持ちいいな。」
と言いながらそのままベッドに横になっていると徐々に睡魔が襲ってきた。しばらくして夕食のアナウンスで目が覚めると、いつの間にか眠ってしまっていたことに気が付いた。食堂に向かう途中、訓練を終えた兵をみかけたが、皆すごく疲れた様子で通路で休んでいる者もいた。それを横目にフォティアは食堂に向かった。食堂では訓練生が皆お盆をもって並んでいた。軍では食事の時間内であれば無制限に食べることが許されている。フォティアはほとんど芋か野菜しか食べたことがないため食堂の食べ物は今まで口にしたことがない料理で珍しかった。その中でも肉類については生まれて初めて食べた。食事全般、とても味が強く感じたがまずいとは思わなかった。フォティアは食事が済むとベッドの部屋に戻り、再びベッドに寝転がった。
「いつもなら、アエラスじいちゃんに稽古を付けてもらう時間だ。母さんとネロウ、どうしているかな。」
とフォティアは心の中で思った。そんなことを考えているうち、いつの間にか眠りに落ちていた。