25.武術稽古

 フォティアは、

「じいちゃん、強いんだ!あの軍人もっと痛めつければよかったのに。」

と言うと、じいちゃんは、

「いいかいフォティア、武術は人を痛めつけるためにあるのではないのじゃよ。決して、人を傷つけてはいけない。それが本当の武なのじゃ。」

と教えられた。フォティアはじいちゃんの言っていることが理解出来なかった。しかし、しばらく考えてアエラスじいちゃんに、

「じいちゃん、僕も武術を学びたい!」

と言い出した。じいちゃんは、

「なぜ、学びたい?」

と聞くと、フォティアは、

「僕もじいちゃんみたいに強くなって、これからもお母さんやネロウを守っていかなくちゃいけないんだ。」

と応えた。じいちゃんは、

「そうか、それにはちゃんと農作業が出来るようにならんといかんのう。」

と、言われた。フォティアはその意味も分からなかった。

「僕は、武術が学びたいって、言ったのにな?」

とフォティアは首を傾げながら呟いた。

 冬も終わり季節は徐々に種まきの時期になっていった。フォティアたちは農園を耕す作業に追われていた。フォティアは相変わらずのへっぴり腰で力任せで耕していた。その様子を見ていたアエラスじいちゃんは、

「フォティア、まず鍬の持ち方がなっとらんのう。鍬の握り方は拳二つ分位離して右手を上に左手を下にして握ったら、右足前に左足を後ろにしなさい。左手が上なら左足前じゃ。鍬を振り上げるときは、下の手を引いて上の手は柄を滑らせながら刃床にかるく近づけてみなさい。そうやって振り上げれば楽じゃ。振り下ろすときはその逆に上の手を下の手に近づけながらすればええ。」

と、説明され、さらに、

「フォティア、腰を引くな。鍬を軽く握って持ち上げたら力を抜いて鍬の重みと自分の体の重みで振り下ろしてみなさい。そして、振り下ろしながら腕を伸展し徐々に小指から手を絞りなさい。振り切ったときには小指は少し強めに握りそこから親指にいくに従い力は緩めて手を絞るのじゃ。そうすれば肩に力も入らんし、狙った場所に鍬が下りるじゃろ。」

と言われた。フォティアは理解しようと一生懸命だった。また、種や肥料の入った自分の体重ほどの布袋を運ぶのにもじいちゃんは、

「フォティア、腕の力だけで運ぼうとするでない。お前はまだ小さいから背中に背負って腰の真上に載せるようにして運ぶのじゃ。顔を上げて胸を開きなさい。お腹の下には丹田というものがある。そこを意識しその一点に載せることじゃ。そこに載れば楽に運べるじゃろ。決して力むでない。」

また、鎌で草を刈っていても、

「手先だけで鎌を扱うんじゃない。背中、肋骨、肩、肘、腕、手首すべて柔らかく靭やかに使って刈ってみなさい。鍬もそうじゃが、左右両方の手で出来るようにな。」

そんな注意を受けながらもフォティアは農作業を習得していった。何度かの冬も越しフォティアも少し大きくなった。アエラスじいちゃんは

「そろそろいいかのう。」

と心の中で思った。そして、あるときアエラスじいちゃんはフォティアに、

「フォティア、お前、以前武術を学びたいとゆうとったじゃろ。今もその気持ちは変わらんか?」

と言うと、フォティアは、

「じいちゃん、覚えていてくれたんだ。教えてくれるの!」

と、目を輝かせて言った。アエラスじいちゃんは長い時間をかけ、農作業を通じてフォティアの体を武術稽古をはじめるのにふさわしい体に鍛え、さらに体の使い方や感覚を学ばせていたのである。じいちゃんは、

「それじゃ、少しやってみるか、じいちゃんに思いっきり殴りかかってきなさい。」

と言うと、フォティアは少し躊躇した。

「遠慮はいらん、本気できなさい。」

と、じいちゃんに言われフォティアはどうにでもなれと思い切りじいちゃんに向かって殴りかかった。さすがにフォティアも体中のあらゆる筋肉がいつの間にか鍛えられており腰の入ったいい攻撃をした。アエラスじいちゃんは、全くピクリともせずフォティアの体のこなしを観察し、

「腰が入っておって、なかなかええのう。姿勢も悪くない重みのある拳じゃ。」

と思いながらじいちゃんは拳があたるぎりぎりでかわした。フォティアはじいちゃん目掛けて拳を向けたのにあたる寸前で消えたことに驚いた。フォティアはじいちゃんの動きが全く追えなかった。と思ったときにはフォティアは中を一回転し地面に仰向けに倒れていた。フォティアは、

「え!?」

と言って、状況がよく分からなかった。フォティアはもう一度やってみた。次はかわされたのかと思ったら一瞬で体の動きを止められ動けなくなった。アエラスじいちゃんは指一本でフォティアの体に触れているだけである。

「どうじゃフォティア、本気で学んでみるか?」

とじいちゃんに言われ、フォティアはすかさず

「はい!お願いします!」

と応えた。ここからフォティアの武術稽古が始まり、そして毎日農作業が終わった後は必ずじいちゃんに稽古をつけてもらったのである。