17.準備完了

 貨物の波動調整とメテオラの運行前点検の終了を確認したウラノスは、貨物がメテオラに搬入完了するまで再び控室で待機していた。その間、貨物物資は手際よくメテオラへと積み込まれていった。

 物資の積み込みには、メテオラの浮く基本原理を利用したパレットで行われる。貨物ステーションに運び込まれた物資は到着するなり受け入れチェックで物資の内容を確認しながらこのパレットに載せられていく。その後、物資を載せたパレットは波動調整部署のスタッフが検査調整室へと移動しそのままの状態で作業を行う。そして、パレットごと波動調整された物資はそのままメテオラ内に積み込まれていくのである。

 パレットの操縦は先頭にある操作スペースに作業者が立ち、そして作業者が光に満たされていれば手すりを握るだけでパレットが浮上し作業者の思い通りにゆっくり進ませることができる。メテオラ・ボードと浮く原理は同じだが規模は大きく、また浮上高度もメテオラの高さほどまで上昇できる。こうして物資をメテオラに積み込むわけだが、貨物用メテオラは乗客用と異なり大量の物資を積み込むため特殊な構造をしている。メテオラの下半分の三分の二程がすべてお皿のように機体から外れその部分が昇降する構造になっており、物資はその降りてきたメテオラの底の上に積まれていくのである。そして、積み込みが完了すると貨物積載部は上昇しメテオラは元の楕円形状へと戻るのである。

 楕円形状となったメテオラ内部の貨物室はそれなりの空間が設けられている。貨物用も乗客用同様で外観は同形状をしているわけだが、乗客用メテオラの客室のある空間がすべて貨物室になる。乗客用の場合は乗客の波動調整を機内で常時行う特殊空間を作るためそれなりの構造とスペースが必要だが、貨物の物資はあらかじめ波動調整済みのものを運ぶため構造がとてもシンプルになっている。そのため客室のある位置には広い貨物室のための空間が用意できるのである。人間のようにダイナミックに波動が変化しやすいものとは異なり、波動の動的変化の振れ幅が比較的少ない貨物輸送はそれだけ単純な構造で貨物室は作られているのである。従って、貨物用の操縦は波動調整の必要がないため一名で行うが、乗客用メテオラは人間の出す波動を常に操縦者が監視し調整しながら操縦するため操縦士は二名で行い、そしてお互いの波動のバランス調整も行いながら航行するのである。メテオラの操縦、乗客の波動調整、操縦者同士のバランス調整と三つのことを同時に行う乗客用の操縦士は意識の使い方がとても高度で繊細なのである。それに対して、貨物用メテオラは大半を操縦のみに集中できるため乗客用と比べれば操縦の難易度は低いのだ。とは言っても、中規模以上の貨物用メテオラを操縦するのは並大抵レベルの精神性の持ち主ではコントロール不可能である。
 その他、貨物用メテオラのコントロール・ルームについては、乗客用は上下二つあり操縦士が一名ずつ乗り込むが、貨物用は一つだけである。そのためさらに貨物室空間を広く取ることができる。また貨物用はコントロール・ルーム内部に操縦席はなく操縦士は真ん中で立った状態で操縦するといった違いがある。

 控室で待機していたウラノスは、物資積載中の間もいつになく入念に浄化と上昇を行っていた。そして貨物がすべてメテオラ内に積み込み終わりメテオラが元の楕円形状に戻されるとスタッフから、

「ウラノス操縦士、準備完了しました。搭乗願います。」

と、連絡が入った。そのときウラノスは、浄化上昇状態からいっきに意識が現実に戻され、

「あ! はい! 了解しました。」

と応えた。ウラノスとしてはもうしばらく続けていたかったが、操縦士控室を離れ上部ドッキングベイ通路へと向かった。

 貨物用の上部ドッキングベイは乗客用と同じでそこから操縦士が乗り込む。下部ドッキングベイは一見するとその存在は見当たらないが、地面自体がクレータのように窪んでおりメテオラの半分がすっぽりその窪みに収まる構造の下部ドッキングベイになっているのである。そして、外からでは分からないが地下では貨物がメテオラ内に運ばれるような構造になっている。

 ウラノスは、上部ドッキングベイ内を移動しながら今更ながら波動調整スタッフの言葉が少し気になりだし、

「さっきの質問は何だったんだろう..」

と呟いた。ウラノスは昨晩あった出来事が何か関係あるのかと少しだけ気にはなったが、そのときはその出来事がウラノス自身に影響しているとは全く思わず、ただの夢を見ただけだとしか考えなかった。ウラノス自身は身体の状態も意識の状態も特に不調に感じなかったからである。表面上では。ウラノスは操縦に集中するためそのことは忘れるよう努めながらコントロール・ルームへと向かった。