11.教官

 教官は模型以外に小さな金属の棒のようなものを手にして訓練生と共に野外に向かった。訓練施設の周囲は木々に覆われているが、施設の出入り口は丸い広場になっておりその中心に訓練生を移動させた。広場の地面は一面均一に短い草が綺麗に生え揃っており、まるで緑の絨毯のようだった。そこに教官は持ってきたメテオラ模型を軽く置いた。訓練生たちは教官を取り囲むように立ってその様子を見ていたが、教官が

「ここからは危険ですので、私がやるから見ていて下さい。」

と言うなり訓練生は思わず模型から遠のいた。アネモイはウラノスの足元にしゃがんで見ていた。そして、教官もその場にしゃがみ込みゆっくりその棒を模型に近づけていくと、いつの間にか訓練生全員も同じようにしゃがんでいた。そして金属棒が模型に触れた途端全員が、

「え!?」

と驚いた。模型が一瞬で消えたのである。皆、何が起きた分からなかった。そして、皆あたりを見回していたがどこにも模型は見当たらなかった。教官は、

「上空を見てごらん。」

と言うと、快晴の青空の中に小さな白い点が浮かんでいた。皆目をこらして見ると随分高いところに模型が浮いているのがわずかに分かった。一瞬で見えないぐらい高いところに移動していたのである。

「この金属は人間の発する波動を増幅出来る特殊な金属で、これも純度の高い三種類の金属を特殊な波動合成技術を用いて混ぜ合わせて作った合金です。」

と教官は説明し、さらに、

「この合金はメテオラの操縦室を中心に外装へ向かって張り巡らされています。操縦者が発する光の波動は増幅されながら操縦席から外装に送られ、操縦者のイメージ次第で浮いたり降りたり前後左右と自由に動かすことが出来るのです。今、私はこの金属棒を通じて模型を上空に移動するイメージを与えたことであのように一瞬で移動したのです。」

と付け加えた。しばらくして模型が上空から降りてくると教官の指示で訓練生は元いたドーム状の施設内に再び戻された。そして、訓練生が着席すると教官は続けて、

「メテオラのだいたいの基本原理はこんなところになりますが、今後訓練生の皆さんには、波動物理学、波動光学、精神物理学などの基礎理論を学び、その後今紹介したような三種類の金属やバロスなど具体的な物質の波動組成の学びへと進みます。さらに応用理論では、これら元素を高純度にする精錬技術や合金の製造方法を学んでいってもらいます。そして、各サイズの用途別のメテオラの詳細な構造から製造に至るまでを実際の製造ファクトリーに出向き直接エンジニアからレクチャーを受けていただきます。高度な技法により精製された素材を使って作られた中大規模のメテオラは複雑なテクノロジがあるわけではありません。どちらかと言うと緊急バックアップに用意された光動力エンジンのほうが複雑になっています。この光動力についても同じく学んでいただきます。技術的なことは実験なども兼ねて学んでいくので、君たちにとっては難しいことはありません。しかし、同時に訓練する操縦技術となるとこれは頭で考えるだけでは駄目です。精神性を問われる技能になります。先程模型で浮かすような波動のコントロールではなく理論が伴った緻密で高度な技能を会得していただきます。ですから毎日の浄化と上昇でこころも身体も安定して綺麗にしておくことを忘れないで下さい。」

と教官が言うと、訓練生は皆で、

「はい!」

と応えた。そして教官が、

「今日の私の講習はここまでです。お疲れ様でした。」

と言われ、訓練生は声を揃えて、

「ありがとうございました。」

と挨拶した。そして、実習生が皆施設を出ていこうとしたとき、教官がウラノスに話しかけた。

「ウラノス、お父さん元気かい?」

ウラノスとアネモイが教官の方に振り向いた。

「はい、元気にしてます。メテオラ操縦士を引退してからは、果物作りに励んでいます。」

とウラノスが答えると教官は、

「君がメテオラ操縦士を目指していることは、昔お父さんから聞いていましたよ。君のお父さんは私の大先輩で一緒に乗客用メテオラを操縦していたんです。ウラノスもお父さんと同じように乗客用メテオラの操縦士を目指しているのかい?」

と聞かれ、ウラノスは、

「はい!」

と答えた。教官は、

「乗客用の操縦はこの星でも最も難しい仕事の一つです。そして、この仕事を全うすることはイコール高い精神性を得ることと同等なのです。必ずしも乗客用メテオラ操縦士になれなくてもそこを目指すことは大変意義あることですので、頑張ってください。」

と言われ、ウラノスは、

「はい、頑張ります!」

とだけ返事をした。アネモイはウラノスから一歩後方に下がった位置から少しウラノスに隠れるように話を聴いていた。教官は、

「ウラノス、大きくなったな。」

と思っていた。実はウラノスが初めて父の操縦するメテオラに乗ったときにこの教官も近くにいたのである。あのとき乗客の波動調整を行っていたもう一人の新人操縦士である。ウラノスは何となくどこかで会っていた気がしていたが当時は初めてのメテオラ搭乗で興奮気味であったためかすっかり忘れてしまっていた。教官は心の中で、

「流石に父親譲りだな。私と波動の相性がとてもいい。隣りにいたアネモイも同じ感じがするな。もしかすると、この二人はこの先いい関係になるんじゃないかな。」

と感じていた。