10.訓練生

 そしていよいよ訓練生の技術講習初日が始まった。講習施設は比較的大きなドーム状のホールになっており、内部は馴染みのある円錐形のナオスの天井を丸くしたような構造だった。そこには、教官と訓練生で合わせて六名だけなので随分と閑散としていたが、周囲にはメテオラの構造がわかる模型や実際に使用される装置や部品などがたくさん並べられていた。その真ん中で円卓のような机があり三十人ほどが座れるように椅子が用意されていた。その円卓の中心にはディスプレイのようなものと丸い机があり、机には箱が置いてあった。教官はその円卓の中心の丸いテーブル横に立っていた。ウラノスたち訓練生の担当教官である。この教官はウラノスの父の後輩であり、父と同じく乗客専用メテオラの元操縦士であった。教官は軽く自己紹介した後、

「今日は初日なのでメテオラの技術講習のイントロダクションを行います。初回ということもありますし、皆さんお互いまだ会って間もないので多少緊張して硬くなっていることでしょうが、今日の説明はこれから学ぶ技術の概略なのであまり気を張り詰めずに気楽にいきましょう。」

と言われた。実習生は皆教官の推測通り緊張していたのか、教官の話が済むなり少し肩の力も抜け椅子に深く座り直した。教官から見て左側端座席にウラノスが座りその隣にアネモイが座っていた。アネモイはなぜかわからないがウラノスの近くにいると安心するので自然とウラノスの隣の座席に着き教官の話を聞いていた。そして、教官による講習が始まった。

「皆さんはメテオラがどうやって地上から浮き上がったり下がったり前進後退できるかの原理はメテオラ・ボードのコントロールや小型のメテオラを利用しているのでだいたいのことはわかっていると思いますが、もう少しだけ詳しく説明していきます。」

教官はそう話すと、特殊な鉱物を箱の中から取り出し掌にのせて説明を続けた。

「皆さん、この鉱物の現物を見る機会はあまりないかと思いますが、この鉱物にはほんの僅かではありますが人間が特定の波動を送ると重さが変わる元素が含まれています。その元素の名をバロスといいます。名前だけは知っていると思いますが。」

教官はその鉱物を重さを測る測定器に載せ、

「それでは、左端からウラノス、こちらに来て鉱物に向かって光りを送るような感じで波動を出してみて下さい。いつも利用しているメテオラ・ボードを浮かすような気持ちで行えば大丈夫ですよ。」

と言われ、ウラノスは円卓の切れている箇所から鉱物の置いてある円形のテーブルに向かった。そして、ナオスで浄化と上昇をしているときの意識で上昇していった。それは宇宙を貫き身体一杯に光が満たされていった。その後、ウラノスは鉱物にかざした掌を通して光を送った。すると、測定器の値がわずかずつ小さくなり明らかに重さに変化があった。教官は、

「なかなか、いい浄化と上昇でしたね。今、実験して分かったと思いますがバロスという元素には人間の出す光の波動に反応して重さが減少する性質があります。しかし、意識に邪念や欲などネガティブな思いがあれば反応はしない元素です。そして、この元素を徹底的に精製し純度を上げたバロスがこれです。」

と説明を加えながら透明なカプセルに入った粉末状のバロスを見せてくれた。それは真っ白に輝いていた。教官はそのカプセルから粉末のバロスをひとつまみほど取り出し用意していた塗料に混ぜ込んだ。そして巨大メテオラを小さくした掌サイズの模型を箱の中から取り出しその模型全体に薄く塗料を塗りはじめた。しばらく乾かした後、教官が、

「今度はアネモイ、この模型にウラノスがやったのと同じ様に光を送ってみてくれないか。」

と言われ、アネモイも円卓の中心に行き、ウラノスと同じように光を送った。その途端模型はアネモイの背丈ほどの高さまで浮き上がった。思わず皆声を揃えて、

「おーー!」

っと声に出した。その後、訓練生たち皆が同じことを行い体験していき、いつの間にか皆が円卓の中に集まって模型を動かすことに夢中になっていた。そして、これがいい感じに訓練生同士の交流にもなった。訓練生はそれぞれメテオラ模型のコントロールで打ち溶け合った後、しばらくして教官の説明が始まった。

「今、みなさんに実験してもらったのがメテオラの最も基本的な原理です。訓練生の皆さんならば、模型なので簡単に空中に浮かすことは出来ます。しかし、大きなメテオラ、特に貨物用や多くの人間を載せて運ぶタイプのものは簡単には浮かすことなど出来ません。もちろん原理的には同じでメテオラの外装には高純度のバロスを含有する塗料が何層にも波動コーティングという特別な技術で塗装されています。しかし、それだけでも浮かすことはできません。」

そう話すと、教官は模型と何かを手にして、

「それでは続きは野外で行うので、皆さん一度施設の外に出て下さい。」

と言って、皆を野外に連れ出したのである。