私は T さんとは半年も一緒にいなかったので、T さんについてよく知りません。ですが、猿山のボス的な考え方を持った方であったことは確かだと思います。そして、T さんはその現場の機器類について一番精通していたため、事実上その現場を仕切っていました。
そして、比較的紳士的な恫喝で恐怖心を煽り、相手を思い通りに動かす方法をとる方でした。T さんが発する言葉には不思議な力が宿っていました。例えば、T さんと会話をしていると、その時には自信満々な T さんの言葉に圧倒されてしまい、T さんの言葉が正しいことのように思ってしまいます。しかし、少し時間が経ってから振り返って考えてみると、T さんの言葉の矛盾点が浮かび上がってくる、といった感じです。
「額の確定調査」の際の受け答えを聞いていても、後で振り返ってみると、「よくあの説明で調査員が納得したなあ。」と感じるものが多々ありました。
多分、T さんの小宇宙は論理的なものではなく、人の感情や情緒を煽動する力を有するものから成り立っていたのだと思います。そのためか、報告書も整然としたものではなく、その時々の気分で作られたもののようで、一貫性に欠けていました。