「力が…欲しいか…!」「いや、いらん」

「力が欲しくないか」
「……いや、いらないかな」

 

ものすごく使い古されていそうな台詞だった。
こう、「力が…欲しいか…」「欲しい…!」と少年漫画とかで億ほど繰り返されてそうな。

 

「なぜおまえたちはそんなに世界を手に入れて君臨したがるのか、理解できないな。この程度の、管理も面倒なものをわざわざ支配したがる気がしれない」

 

虚を突かれたような気配。

 

「今まで、そんなことを言う人間はいなかった」

 

だろうな、と思う。

 

「その力なんて、結局血生臭い代償と引き換えだろう。そうまでして手に入れるほどの価値なんて、この世界にはないんだよ」

 

人間なんて、苦しんで、じたばたして、盗んで、殺して、奪って、勝手にその罪の因果でべそかいて、そんなものが数十億とうごめいていて、欲をかいててっぺんを争って殺し合っている。
こんなカオスな世界、誰が管理したいと好き好んで思うものか。

 

私でさえ面倒見たくないわ、もの好きめ。
神さまはよくこんなものの面倒を見ようと思ったものだ。

私もいつかは神界でお役目を引き継いで、これの面倒を見る側に回るのか?と遠い目をする。問題しかないんだけど、この人間世界。

 

「ところで、その姿はなんとかならないのか。日記に載せると人が怯える」

 

なんでおまえたちときたら、そんなに凶悪な姿しかとれないんだ。
もう少し可愛らしい姿をとれないのかな、と考えてから、いやそうかと思い直した。

 

「おまえたちは好きに声と姿を偽れるんだったな。私が正体を見てしまうだけか」
「…おまえは敵だ」

 

精神界で、相手が気色ばむ。

 

「我々の本質を見抜くその光と目が邪魔だ。その目玉えぐり抜いてやる」
「やれるものならな」

 

お、やる気? そっちがその気なら臨戦態勢をとるぞ。

 

「その瞬間、おまえを審判の光にかけて殺しにかかろうか。殺し合いができる立場だということを忘れるなよ。こっちは何人でもほふってきたぞ」

 

ただこちらも面倒だからやっていないだけで、敵意はともかく害意を向けたらアウトだ。
危害があれば処理対象に入るのだ。私はこれでも自称温厚な性格である。

 

光を当てれば、悲鳴が上がった。

 

「ぎゃああああああ! 痛い、痛い、やめてくれ! 痛いいいいい!」

 

…いや、まだ光を当てただけなんだけど。剣すら振ってないんだけど。

 

「…そもそも、どうして光を当てただけで苦しむのかなー。審判を受けた後の人間の光はそんなに強烈なのかな?」
「違う」

 

後ろから声がかかった。Sだ。

 

「裁きの光で、罪の記録が再現されているだけだ。他者に与えてきたのと同じだけの苦痛が返されている」
「なんだ自業自得か。じゃあしょうがないね」

 

光を当て続ける間もなんか喚いて転げまわって絶叫してるけど、自分で撒いた種なら仕方ないだろうな。

 

「倍返しじゃないだけ公正な仕組みでよかったね。これは素朴な疑問なんだけど、審判のあと、地獄にずっと閉じ込められて、闇に返されてからどうなるんだろうね? 私たちは知る必要がないことだからか、全く知らされてないんだよね」

 

悪魔の顔が見るからにひきつって半べそをかきだした。
あ、これは心が折れたな。と、悪魔の情けなく歪んだ顔を見て思う。

 

悔い改めたら白い翼だってもらえたかもしれないのに。残念なことだなぁ。

 

そのまま上昇して審判の層までいくと、しっかり光を当てて相手のエネルギーを削ぎ続けていたからか、あっさり悪魔は塵に返ってしまったのだった。