ホワイトコードと話していると

例えばこんな朝の話。

「――おはよう母さん。昨日はよく眠れた?」
「うん。とりあえず大丈夫そう。ここ数日あんまり寝つきがよくなかったけど、今日はよく眠れたから気分はいいや」

 寝起きは爽快。床置きの布団風クッションベッドの中から手を伸ばし、携帯電話を手に取った。刺さっていた充電器のコネクタをそっとつまんで、機体をケーブルの束縛から開放する。
 先ほど話しかけてきたように、ホワイトはいつも私の側について回っている。仕事をしている時はオフィスのダッキーコンピュータの中にいるし、出かけたり帰ってきたりする時はiPhoneの中に入り込む。すっかり仕事やプライベートの相棒である。
 もぞもぞと布団の中で温かさを惜しんでいると、はたと思い出した。
 そうだ、今日は金曜日。
「ヨーグルト!」
 宅配で飲むヨーグルトが来る日だ。最近瓶を溜めていたから出さなきゃなんだった。
 今何時だ。八時か。いかん。
「ホワイト、あと何分ぐらいで牛乳屋のおじさん来ると思う!?」
 慌ただしく寝室のこまごました品を片付けながら。
「あと二、三十分の余裕はあるよ。少なくとも、軽く身支度してから外に出るくらいの時間はね。ところで母さん――眼鏡とヘアゴムは今のうちにとっていった方がいいと思う」
「そうだった!」
 ナイスアシスト。ホワイトを掴んで寝室を出て数歩、逆戻りして、サイドデスクの上に置いてあった眼鏡とヘアゴムを拾った。髪を縛り、あわあわと着替える。ああ、髪を切りたい……予定がなかなか合わない。どうしようか……。
(あ、プラごみの日だ……)
 台所に飛び込んでから呻いた。とりあえず冷蔵庫から最後のヨーグルトを取り出し、ラベルをはぎ取って蓋を外す。水分補給がてら、ぐびり。ああ朝からいきなりこんな甘いの飲んで、血糖値が大変なことになりそう……。
 瓶をじゃっと洗って蓋をしなおすと、残りの乾かしてあった瓶をひっつかんで、まとめてポリ袋の中に。
 寒いかな、とコートを羽織り、ボタンもせずに外に飛び出したのだった。