しゃべる植木鉢・2(まさかの続編)

会長と話す機会があった折、しゃべる()レモンのことが話題になった。
幼木は普通、しゃべらないらしい。
老木の方が意識がよく覚醒しているのだそうだ。
それで、この前、事務所の古いパソコンを覚醒させた前科(?)を思い出した。

「それってつまり、私が毎日お世話していたから覚醒した…?」
「かもね」

どうも、私にはイシキメザメサセールみたいな、不思議な特殊作用があるようだ……。
そこにいるだけで悪いものは吸収・浄化し、何かを活性化させるらしい。
便利な置物だナー。(※なお、意識で制御できないのでたまに吸いすぎて体調が死ぬ)

観察していると、しゃべる鉢植えにも法則性がある。

頻繁に目で見て、意識を向けて、何よりよく触ることが重要のようで、鉢によって覚醒度合がまるで違う。

よく目覚めているのは、一番よく様子を見て触っているレモンだ。五月にアゲハ蝶と少ない幼木の葉っぱをめぐって、毎日仁義なき戦いを繰り広げたせいだと思う。あとかなりの肥料食いらしく、気づくと葉っぱの色が薄いままだったり、新芽をぽとぽと落としたりして気が抜けない。

その次に、枝の剪定や、咲き終わった花がらを切ったりしているゼラニウム、ガーベラ。
ゆずはあまり触らないからか、ぼんやりとしている。
千両にいたっては、放置気味にしてもあまり害虫がつかないので、触らなかった結果、まるで意識が覚醒していない。閉じた貝のようだ。

蛇の道は蛇。自然界のことを語らせてみると、レモンは割に饒舌だ。
木独特の視点があって面白い。

「アゲハ蝶たちも役割があるんだよね」とはレモンの弁。

「自然界だと、剪定なんてされないから。枝がたくさん茂りすぎると、混み合った葉を食べて陽の光が入るようにしてくれるんだ。人間がしなくてもアゲハの大食漢の幼虫たちが、健康になるように余計な葉を間引いてくれるんだ」

目から鱗だった。なるほど、そういう風にも見れるのか。
でも幼木よ、君には葉っぱが四十枚しかないのだから、幼虫が一匹いるだけでアウトだぞ。
あいつら、幼い新芽に容赦なくコンスタントに、かれこれ三十個くらい生んでいったけど。

じゃあ、葉肥・実肥・根肥と言われる、窒素・リン酸・カリはどう働くもんなの?

「窒素はミトコンドリアの葉緑素を作るのに必要。リン酸はアミノ酸を作るため。カリは骨のカルシウムと同じで、根を強くして木全体を支えるためにあるんだ。微生物の体が死んでバラバラになると、ちょうどいい鎖の長さで栄養素が吸える。そうして光合成のエネルギーで糖の合成をして、体を作るためのエネルギーを蓄える。身を作るのに足りない材料は微生物の死骸(※1)からもらうから、だから土づくりが大事なんだ。有機質は微生物を増やすからね」

微生物の亡骸が植物の餌……
前に読んだ本の内容だと、植物は生成した糖のかなりの割合を根から放出して、微生物たちを呼び寄せているという。エネルギーを与える代わりに、その亡骸を作っていた要素を栄養源として回収させてもらう(※1)。彼らはそういう共生関係にあるらしいのだ。

「君らって……さてはわりと肉食だな………?」

自然界の謎の食物連鎖を見た気分になった。

※1:あとになって調べ直すと、亡骸だけじゃなくて生きている微生物の働きでも、植物にとって有用な働きはいっぱいあるようだ。
どっちにしても植物にとって有用な微生物がいっぱいいる土に根を下ろすことが、生育にとっては大事みたい。