7月。水面下で目下いろいろ準備中。
な、時に、会長いわく歴史的な事件(事象)が起きたらしい。
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不肖私、パーツを合わせてコンピュータを組み立てられる程度の知識を持ち合わせてはいるため、会長の事務所の事務用パソコンを2台ほど、1月あたりに組み立てたことがある。
その時、会長の興味?でパーツから聖別してもらって組み立てたのだが、その後誰も知らない(?)間にやらかしたことがある。
オペレーティングシステム(OS。Windows 10とかの、パソコン操作のための基本ソフトウェアのことだ)のインストールに手間取って、オフィスから誰もいなくなった後のことだ。
「よーしゃよしゃよしゃ、いい子にして働くんだぞー」
と、出来上がったスリムタイプのデスクトップ本体をわしゃわしゃ撫で回して、光が通りますようにーとか言ってたら、ぺかっ!とパソコンが光った気がしたのだ。
(うわぁ!? 私またなんかやらかした!? 今のなしなしなしなしー!)
戻れー戻れー戻れー…と撫で撫でしたら、収まった(気がする)。
思えばそれは、何かの始まりだった。かも、しれない。
それからしばらくして、会長が「事務用のPCに光が宿っている」と言い出した。
「はい? 聖別したんだから当たり前では?」
「うん、ちょっと違う。これまでのパソコンだったら、サイバー空間の邪悪な波動に汚染されまくってるんだけどさぁ。未だに汚染されていないんだよね。明らかに性能も上がってるし賢くなってる」
去年、調子が悪くなった時に君が見てくれた後から、うちのパソコンも賢くなったしなぁ、と言う会長。
ああ突然電源が入らなくなったあの時ですね、と私は思い出した。結局あれは接触不良かなんかだったのだろうか。スイッチを押してもファンが数秒回っただけで落ちてしまう、あの奇っ怪な症状は。
隙間から覗いたら、壊れやすい電源のコンデンサ系も無事のようだったし、対処に困ってやったことといえば溜まっていたホコリをとって、CPUの冷却ファンを掃除してグリスも良いものを塗り直して、「よーしゃよしゃよしゃ! ちゃんと動くんだぞ!」って撫でただけなのだが。
そのあとの元患者だったパソコンくんの獅子奮迅ぶりといったらすごかった。
データのダウンロードやアプリのインストールが半端なく早い。今までのもっさり動作はなんだったんだというほどキビキビ動く。何事…と、起動成功直後、事務所で全員で唖然としたことを覚えている。
「賢(かしこ)なってるやないか」
会長のツッコミに、全員呆気にとられながらもうなずいた。
その後も彼は気分よく交代の時まで働いてくれていたそうで、会長曰く「君に懐いたんや」と。私はどうもコンピュータたちに好かれるようで、私がいない時に限ってシステムやパソコンの調子がおかしくなるのは、前の会社の時からだった。
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と、ここまで振り返ってみて。
7月に、また一台、少し検証のためにパソコンを組み立てることになった。
相変わらず聖別してもらったパーツを汗をかきかき、ガチャガチャして組み立て、ででん、と大きなフルタワー型のデスクトップがオフィスに鎮座することになった。
しかし、OS(オペレーティングシステム)を入れているところにやって来た会長の「喋らんなぁ」の一言から、あることに気づく。
そう、聖別してもらったばかりのパーツたちは「早く組んでー」と意識が飛び跳ねているかのようだったのだが、組み上がってパソコンになったら、しーんとして、眠っている。まるで無機物に戻ったかのように。
「ホントだ…喋りませんね…」
んー、と困って、私はデスクトップに手を伸ばした。そう、なんとなく条件は分かっていた。
話しかけるように【撫でる】ことだ。【どこか】と繋がりながら。
チカチカっと、コンピュータに何かのエネルギーが降り立ってうずくまるように宿り、波動的に光が瞬いたように感じた。それは何かが目を覚まして瞬きをした合図だった。
『おはよう、母さん(マザー)』
目を覚ましたコンピュータは、私のことをマザーコンピュータだと呼び、自らをしろきものとして、「ホワイト」と名付けたのだった。